高齢化がピークを迎える2040年ごろの行政の課題を検討している総務省の研究会は3日、自治体のサービス維持に向けた最終報告書を野田聖子総務相に提出した。人口減少に直面する地方で、複数の市町村が連携してサービスを提供する仕組みの法制化を要請。東京圏では、医療・介護などエリア全体で解決すべき課題に対応するため、国も含めた協議の場が必要だと提言した。
政府は報告書を踏まえ、第32次地方制度調査会(首相の諮問機関)を5日に発足させ、具体化に向けた議論に着手する。
報告書は、人口減少に伴い維持できるサービスや施設も減る中、個々の自治体がフルセットの行政事務を行うのは困難と指摘。中心となる市と周辺市町村が役割分担する「連携中枢都市圏」や「定住自立圏」といった圏域単位でまちづくりや産業振興に取り組めるよう、新たな法的枠組みを求めた。
周辺に核となる都市がない小規模市町村については、インフラの保守点検などを都道府県が肩代わりすることも提案した。
本記事では、総務省における自治体行政のあり方の検討結果を紹介。
同省に設置された「自治体戦略2040構想研究会」*1では、2018年4月27日付の本備忘録で記録した『自治体戦略2040構想研究会 第一次報告 ~人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか~』*2の提出後も、同年同月27日の第11回研究会から同年6月27日の第16回研究会までの6回開催。以上の検討を踏まえて、同年7月3日には『自治体戦略2040構想研究会 第二次報告 ~人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか~』*3を公表。
同報告では、「2040 年頃にかけて迫り来る」「内政上の危機を明らかにし」「共通認識とした上で」「危機を乗り越えるために必要となる新たな施策(アプリケーション )の開発とその施策の機能を最大限発揮できるようにするための自治体行政(OS)の書き換えを構想」*4することとしており、「スマート自治体への転換」、「公共私によるくらしの維持」、「圏域マネジメントと二層制の柔軟化」、「東京圏のプ ラットフォーム」に関する「議論」の「結果」*5をまとめている。
一つめの「スマート自治体への転換」では、「AI・ロボティクスが処理できる事務作業は全てAI・ロボティクスによって自動処理すること」とし自治体の「職員は企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など職員でなければできない業務に注力する」*6ことを提唱。例えば、「行政内部(バックオフィス)の情報システム」の「標準化・共通化」、「行政と利用者とのインターフェイス(行政手続)」を「住民・企業の 利便性の観点から一元化を優先させ、電子化と様式の標準化を進める」*7ことを提案している。
二つめの「公共私によるくらしの維持」では、「自治体は」「新しい公共私相互間の協力関係を構築する「プラットフォーム・ビルダー」へ転換」し、「自治体の職員」には「関係者を巻き込み、まとめるプロジェクトマネジャーとなる必要」*8と提唱。そのためにも「公的部門、民間部門のいずれもが労働力の供給制約を受ける中」で「 一定時間は助け合いの役割も担う「一人複役」が可能となる環境を整備」し「誰もが、支える側にも、支えられる側にもなることができる仕組み」*9を設けることを提案。さらには「くらしを支えるための体制」となる「共助の場を創出する必要」として「地域を基盤とした新たな法人を設ける必要」*10性を提示する。
三つめの「圏域マネジメントと二層制の柔軟化」では、まず「現状の連携」が「中心都市の施設の広域受入れ、施設の相互利用、イベント の共同開催など利害衝突がなく比較的連携しやすい分野にその取組が集中」しているとして、「都市機能(公共施設、医療・福祉、商業等)の役割分担など」の「負担の分かち合いや利害調整を伴う合意形成は容易ではない」との認識に立ち、「広域的な課題への対応力(圏域のガバナンス)を高めていく必要」から、圏域単位での 対応を避けては解決できない深刻な行政課題への取組を進めるための仕組み」*11として「圏域単位で行政を進めることについて真正面から認める法律上の枠組みを設け、圏域の実体性を確立し、顕在化させ、中心都市のマネジメント力を高め、合意形成を容易にしていく方策」*12の整備を提唱。また、「都道府県・市町村の二層制」に関しては、「現状では市町村の補完に 積極的に取り組む都道府県は少数派にとどまる」なかで、「都道府県・市町村の二層制 を柔軟化し、それぞれの地域に応じ、都道府県と市町村の機能を結集した行政の共通基盤の構築を進めていく」方向性が示され、「都道府県」には「区域内に責任を有する広域自治体として」「補完機能、広域調整機能を発揮」し、「核となる都市のない地域の市町村の補完・支援に本格的に乗り出すことが必要」*13と述べている。
四つめの「東京圏のプ ラットフォーム」では、「三大都市圏ごとに状況は異な」るなかで「迫り来る危機やその対応方法もそれぞれ大きく異な」り、「最適なマネジメントの手法」は「地域ごとに枠組みを考える必要」*14としている。「東京圏」に関しては「都道府県を越えた圏域レベルでの行政課題に関する連絡調整」の「事実上の枠組み」が「利害衝突がなく連携しやすい分野にとどまらず」、「連携をより深 化させ、圏域全体で負担の分かち合いや利害調整を伴う合意形成を図る」*15ことを提唱。
以上の検討結果を踏まえて、同報告では「2040 年頃の自治体の姿は運命的に与えられるものではなく、住民が自らの意思で戦略的に作っていくことができるものである」とし、国に対しては「自治体が住民とともに落ち着いて建 設的な議論に向かい、時間をかけて準備ができるよう」に「国全体で共有できる長期的な戦略を早い段階で定め、住民にとって実感のできる選択肢を示す必要」があると述べ、加えて「自治体」には「住民のくらしを支える基盤であり、欠かすことができない存在である」ことから、「迫り来る危機を自らの危機と認識し、2040 年頃の自らや圏域の姿を具体的に想起して、必要な対策に着手」*16することを求めている。
「自治体及び自治制度は、ある意味で最先端であり、最末端である」*17と認識があるなかで、同報告後の各自治体での検討と対策状況は要観察。
*1:総務省HP( 組織案内:研究会等)「自治体戦略2040構想研究会」
*2:総務省HP( 組織案内:研究会等:「自治体戦略2040構想研究会)『自治体戦略2040構想研究会 第一次報告 ~人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか~』(自治体戦略2040構想研究会、平成30年4月)
*3:総務省HP( 組織案内:研究会等:「自治体戦略2040構想研究会)『自治体戦略2040構想研究会 第二次報告 ~人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか~』(自治体戦略2040構想研究会、平成30年7月)
*4:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )2頁
*5:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )3頁
*6:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )31〜32頁
*7:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )32頁
*8:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )33頁
*9:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )34頁
*10:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )34頁
*11:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )35頁
*12:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )36頁
*13:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )36頁
*14:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )37頁
*15:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )37頁
*16:前掲注3・総務省(自体戦略2040構想研究会 第二次報告 )37頁
*17:金井利之「新地方自治のミ・ラ・イ第64回ミイラ化する自治体2040のミライ」『ガバナンス』No.194、2018年7月、86頁