大阪府の大規模プロジェクトなどの課題を、主要幹部で議論する「経営企画会議」の初会合が7日、開かれた。破たんした府の第3セクター「りんくうゲートタワービル社」(泉佐野市)などの失敗を繰り返さないための、民間企業の取締役会的機関。橋下知事は「政策決定の責任はすべて僕が負うが、いろいろご意見をうかがいたい」と話し、府幹部に“ブレーキ役”を求めた。
 従来の政策決定は、担当部局が立案し、知事が最終決定していたが、橋下知事は、知事職について「他人から歯止めをかけてもらわないと、こんな権限を持つと、普通の39歳なら必ず(判断を)誤る」(6日の記者会見)と話しており、幅広い意見を幹部から聞くために設置した。知事、副知事、教育長ら約10人で、30億円以上の負担を伴う政策について協議。透明性を高めるために議事録も公開する。この日は府やJR西日本が出資する第3セクター「大阪外環状鉄道」の運営について協議した。

少し古い記事となりましたが,同記事では,大阪府で「府政に多大な影響を及ぼす可能性のあるものとして知事が指定する施策,事業等を審議」(設置要綱第1条)するために,「知事,副知事,危機管理監,水道企業管理者,教育長,政策企画部長,総務部長,並びに大阪府組織条例に規定する部の長のうち,審議事項に関係するとして知事が指定したもの」(設置要綱第2条)から構成される「経営企画会議」*1を開催したことを紹介.関西社会経済研究所のインターネット調査では,府民等からの支持率が63%*2もある同府知事のマネジメントの仕組みとして設置.「改革者」(innovator)である知事に対して,理事者・部長層が「「モノ言う」ミドル」*3となることを期待する舞台装置.高い支持率に左右されることなく,参加者には「耳障りであっても事実をきちんとお話しする」*4ことが同会議が機能するための基本原理か.もちろん,「最も重要なスキルとは,決定の後に起こる事態を管理する技術」*5ではあるものの,その管理に先立ち,基本的に短期的(有期的)コミットメントが前提となる知事と,長期的コミットメントが前提となるプレーヤーである理事者・部長層各々が実施可能なこと,不可能なことを補完し合う装置となると興味深い.
個人的には,都市自治体レベルでの同種の「庁議システム」に高く関心.本年度内に一本纏めた小論を書かねばならないこともあり,同会議の動向に関しても興味深く,今後も要観察.ただ,「庁議システム」は,自治体行政上,マクロ,ミクロの視角の何れからも観察・分析されても良い対象とは思うものの,良質な観察結果・分析結果が余り蓄積されていない分野の一つ.伊藤大一先生や金井利之先生による考察に限定される程度*6.例えば,伊藤正次先生による「コア・エグゼティブの構造と編成」に対するエレガントな分析概念である「集権」「包摂」を参照しつつ*7自治体レベルにおける庁議システムの変容等を把握することも興味深いかと思うが,マクロ的な変化に関しても十分な観察蓄積がない.近年では,ミクロ的にも,庁議結果の公表を行うところも広まりつつ,一部では,職員以外の方の庁議への参加事例もあり,事例個体の生態としても興味深い動向がある.今後の観察者の増加を心から期待*8

*1:大阪府HP(報道発表資料)「第1回大阪府経営企画会議の開催結果について」「【会議資料】大阪府経営企画会議の運営方針等について

*2:大阪日日新聞(2008年8月9日付)「橋下改革、府民の63%が支持 民間機関調査

*3:吉村典久『部長の経営学』(筑摩書房,2008年)154頁

部長の経営学 (ちくま新書)

部長の経営学 (ちくま新書)

*4:与謝野馨『堂々たる政治』(新潮社,2008年)5頁

堂々たる政治 (新潮新書)

堂々たる政治 (新潮新書)

*5:ジェフリー・フェファー『影響力のマネジメント』(東洋経済新報社,2008年)24頁

影響力のマネジメント

影響力のマネジメント

*6:伊藤大一「庁議の研究」『都市問題』第80巻第9号,1989年9月号,金井利之「自治体マネジメントの変革」大杉覚編著『自治体組織と人事制度の改革』(東京法令出版,2000年)

*7:伊藤正次「国による「上」からの分権改革」森田朗・田口一博・金井利之編著『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)20頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

*8:下名も,少し観察結果を次のように残しております.松井望「Ⅰ意思決定 分野総括」財団法人日本都市センター『分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究』(2008年3月)48〜53頁(Amazonにアップされておりました)

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-