嘉田由紀子知事は23日、来年度予算について「赤裸々な所こそが県民が知りたい。基本的には(編成過程を)公開する」と述べた。事務的経費を前年度比5%減などとする予算編成の基本方針を伝える会議の後、語った。県幹部によると、最終段階となる知事査定協議の公開を想定している。
 県は従来、予算について、査定前の各部局の要求額と、査定完了後に議会に示す予算案を公表してきた。しかし、嘉田知事は来年度予算から、編成過程の透明度を上げる意向を示し、この日の予算編成方針の会議も公開した。今回の知事発言は、予算案を組む前の最終段階の知事査定で、各部局と知事、財政当局が協議する場の公開を念頭に置いたものとみられる。この日の予算会議の後、嘉田知事は「(財政が)ギリギリだからこそ、どこを残し、どこを我慢するか、プロセスを共有してもらいたい。県民に見てもらい、より良い県政にしたい」と説明した。一方、来年度予算の基本方針では、事業費は「財政構造改革プログラム」などで示した削減の徹底を優先し、新たな削減枠は設けないが、事務的経費は5%減らす。また、予算編成の8本柱に▽保健医療・福祉▽防災▽子育て▽教育・体験活動▽琵琶湖保全▽脱温暖化▽事業創出支援▽環境産業の創出・育成−−を掲げ、重点政策経費を設定する。嘉田知事は「部局別というより、テーマ別にメリハリを付ける」としている。【服部正法】

同記事では,滋賀県において,今年度の予算編成における知事査定を「公開」で行う予定であることを紹介.10月23日京都新聞が報道するように,同県の幹部会議における「2009年度予算案の編成方針」の提示とともに提示されたとのこと*1
予算編成における近年の主流な考え方を整理してみると,次のようなものか.つまり,「大きな経営資源の再配分」を図るためには,「現実の行政を担当している各部局に経営資源の再配分に関する一定の権限と責任を分担」し,そのうえで「プロ集団としてコーディネイトしチェックする役割が財政課や人事課に求められる」*2というものである.このことは,同時に「予算の最初の段階で支出」する部門を拘束する財政上の目標やルールを設定する仕組みを定めて財政規律を確立する」とされる「契約アプローチ」*3による予算編成システムの考え方が採用されているともいえる.これらの考え方では,「予算編成に関わるプレーヤーのインセンティブを変え」(350頁)ることにより,財政規律を確保することが目的となる.そのためにも,各部門に支出の割当等の「裁量を与える(分権化)」の仕組みを整備するとともに,「財政当局」を「単年度の個別事務事業の査定というよりは,将来にわたる歳出・歳入の正確な見積もり,あるいはベースラインの正確な予測と管理」へとその「役割を再定義」(351頁)が進められることになるという.
10月21日の本備忘録でも取り上げている枠配分予算制度のように,これらの考え方の具現化に関しては,下名は,意外と,自治体レベルでの展開が長じているようにも観察しているが,どうだろうか.このような「契約アプローチ」的な予算編成システムが徹底されていくと,各部局への予算権限の付与が進む一方で,旧来の財政部門の機能転換もまた必要となる.そのため,10月21日の本備忘録でみた相模原市の試みは,一つの典型例とも考えられる.しかし,実際の各自治体で採用されている枠配分予算制度を観察すると,各部局への権限は付与されつつも,財政部局の「役割」に関しては,従来の「定義」(機能,所掌事務)は「実質上」持続する(又は,せざるを得ない)事例がまま散見される.このこともあり,結局は4月2日の本備忘録で取り上げたように,結局は,「財政部(局)統制」の復権という結論にもなりかねない(このことは,財政部(局)に属する職員の皆さんにとっても,一度減じた査定業務・事務が復活することでもあり,余り歓迎されるものではないのだろうか,とも思う).
以上の考え方を踏まえつつ,同記事の予算の知事査定段階で公開することを考えると,その意義はなかなか考えさせられる.例えば,「契約アプローチ」の考え方からすれば,知事査定段階は,あくまで,知事及び理事者が事前に規定した予算編成方針である「契約」の検証過程といえる.そのため,知事査定段階で本質的な意味合いでの査定が行われることは想定しがたい.むしろ,知事査定段階においても査定を本格的要するのであれば,翻って,予算編成方針の策定段階においてこそ,厳格な手続が整備されておくこと適当とも考えられる.つまりは,編成方針の作成段階こそが,予算編成上の胆になるともいえる.となれば,予算編成方針段階を公開することこそが,結果として全庁的な財政資源の配分に関する「契約」締結に結びつくものとも考えられなくもない.ただ,実際に知事査定の段階を実質的な査定を行うためには,逆説的ではあるが,知事査定に至るまでの財政部門による「査定」が重要になるとも考えられる.つまりは,知事査定の場が予算編成手続における華舞台となりうるかは,「財務部(局)統制」次第ともいえる.知事査定段階の公開という予算編成システムの転換が,より実質的な機能を果たすためには,既存のシステムをもあわせて見直すことをも要請されているようにも考えられるが,どうだろうか.

*1:京都新聞(2008年10月23日付) 「子育て、水環境など重点 滋賀県09年度予算 編成方針 経費は5%減

*2:山粼重孝「総説」瀧野欣彌・岡本保編集代表,山崎重孝編著『行財政運営の新たな手法』(ぎょうせい,2006年)28頁

行財政運営の新たな手法 (シリーズ 地方税財政の構造改革と運営)

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*3:田中秀明「財政ルール・目標と予算マネジメントの改革」青木昌彦・鶴光太郎『日本の財政改革』(東洋経済新報社,2004年)349頁

日本の財政改革 (経済政策分析シリーズ)

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