兵庫県豊岡市は民間人を対象に、副市長2人のうち1人を全国公募する。地方自治体のナンバー2の公募は珍しい。近く市のホームページなどで告知を始め、中貝宗治市長との面接などで採否を決める。8月にも就任する。応募資格は40歳以上で都内や神戸市内で説明会も実施する予定。中貝市長は「民間のコスト意識や感度を取り入れたい」と強調している。副市長の公募は新潟県上越市青森県十和田市などで実施例がある

同記事では,豊岡市において副市長を全国公募する方針であることを紹介.同市では「意志決定のスピードアップや市内の各種行事への参加のため」から副市長の2人制を採用することとなり,同職のうち「2人目は出来るだけ早く民間から招きたい」との首長側からの意向があった,とも2009年5月15日付の毎日新聞にて報道*1があり,同意向を受けて今回公募が開始されることとなった模様.同公募内容の詳細に関しては,現在のところ把握できず,残念.
同記事にも紹介されている十和田市における同職の公募内容を拝読させていただくと*2,まず,「応募資格」としては,「元気で希望あふれる,安心して生活できる十和田市の未来を実現するため,行動力と熱意を持って取り組んでいただけるかた」,「日本国籍を有する満25歳以上のかた」,「性別,学歴は不問」,「市内に居住している,または居住できるかた」,「地方自治法に規定する副市長の欠格事由に該当しないかた」の5項目が示されている.厳格な「資格」要件に基づく公募というよりも包括的な規定に基づいており,2008年12月19日付の本備忘録でも言及した同職の「玄人」性よりも「素人」としての側面に重きを置いた選抜要件ともいえそう(下名個人的には,プロフェッション(玄人)からなる組織に,何れかの職にレイマン(素人)が就任することの機能は,影響力の有無や,勿論,同職就任後の機能障害の蓋然性,更には,副作用の虞はあるにせよ,組織運営において一定以上の効果があるようにも思う).
また,その「任期」は「市議会の同意後,任命の日から4年間」とあり,「給料など」は「月額630,000円,期末手当2.95月分」とある.公募差に際しては,課題論文が課されており,「私の考える元気な十和田市づくり」を「5,000字以内」で書式自由で記述することとある.これらの応募資格を踏まえた,十和田市における最終的な公募状況に関しては,2009年5月2日付の東奥日報にて報道*3(なお,同市では,同時に教育長も公募).その結果,「県内外から」副市長に対しては「三十四人」(教育長については「十六人」)の「応募」があったという.その内訳は「副市長には県内が二十一人(うち市内十五人),県外十三人」とあり,「公務員や大学講師などの二十八−七十四歳」,「女性は三人」とのこと.募集後は「各役職ごとに市民ら五人で構成する候補者選考委員会を設置」し,「書類選考と個別面接を経て,六月初旬までに小山田久市長が最終決定」の予定.近日中に決定されるのだろうか,要経過観察.
「市民に『いらっしゃい』『ありがとう』と言える」*4ことを基準(いわば,「素人」性)に民間からの就任方針も持つ市長もいる,副市区町村長という職.「助役」の名称の頃には,その「7割近くが内部登用であり,日本的な人事システムの典型をなす部分が見受けられる」*5とも分析されたこともある.他方で,同職については,2008年6月15日付の本備忘録でも引用にて紹介したように,「市政レベルでの政官の結節点」「政官の交錯点」*6でもあり,そのためか,地方自治法第162条に基づき,同職選任に際しては議会の同意が必要とされ,いわば議会が「制度的拒否権プレイヤー」*7となる仕組みとなる.ただ,場合によっては,議会が「党派的拒否権プレイヤー」(26頁)となる事例もあるとされており,首長のいわゆる「右腕」*8(又は,「利き腕」)となる人材が,議会による選抜基準に依拠せざるを得ない現況にある.
確かに,2008年4月20日付の本備忘録でも言及したように,同職における議会との関係性からの議会同意の必要性は少なからず理解は出来るものの,下名個人的には,やはり,2008年6月15日付の本備忘録の本備忘録でも言及した内容からの変更はなく,その統制を,「事後的な統制」へと改めることがが,少なくとも住民によるその職務内容への統制の観点から立てば,理に適っているとも考えている(具体的には,地方自治法第162条の同職の選任に際する議会同意に関する規定を削除したうえで,同法第81条の規定を「長,副知事若しくは副市町村長,選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員」と改めることで,「議会による」解職請求等の仕組み.勿論,議員も又「住民」であるので,地方自治法第13条の「主要公務員の解職請求権」を用いることで,事足りるとも考えられなくもない).「議会機能のさらなる充実・強化が求められている」*9一方で,機能の充実・強化が求められるがゆえに,既存の権能についてもまた見直しをすることも適当と考えるのは,下名だけだろうか.

*1:毎日新聞(2009年5月15日付)「豊岡市:副市長に中川氏 2人制条例も成立 /兵庫

*2:十和田市HP「広報とわだ」第78号,2009年4月号,15頁

*3:東奥日報(2009年5月2日付)「副市長公募に34人/十和田市

*4:中日新聞(2009年6月1日付)「副市長に元トヨタ系営業マン 名古屋初の民間出身

*5:田村秀『自治体ナンバー2の役割』(第一法規,2006年)65頁

自治体ナンバー2の役割―日米英の比較から

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*6:金井利之「はじめに」『倉敷の町並み保存と助役・室山貴義』(公人社,2008年)酛頁

倉敷の町並み保存と助役・室山貴義―自治に人あり〈1〉 (自治総研ブックレット)

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*7:ジョージ・ツェベリス『拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか』(早稲田大学出版会,2009年)25頁

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

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*8:玄田有史佐藤博樹「人材育成がカギを握る中小企業の成長」佐藤博樹玄田有史『成長と人材』(勁草書房,2003年)40頁

成長と人材―伸びる企業の人材戦略

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*9:総務省HP(審議会・委員会地方制度調査会第29次地方制度調査会第28回専門小委員会(平成21年5月26日開催))「今後の地方行政体制のあり方に関する答申(案)」22頁