原口一博総務相は5日、国が法令で地方自治体の仕事を全国一律に縛る「義務付け」見直しで、全国知事会など地方側が要望していた104項目のうち、62項目の見直しに関係府省が応じると回答したと発表した。公営住宅に単身者でも入居できるようにすることや、保育所の面積基準の一部緩和などが含まれている。
 義務付けの見直しは、国の権限を緩和し自治体の自由度を高めるのが狙い。結果について原口氏は「地域主権改革の大きな第一歩」と強調したが、公立小中学校の一学級の児童生徒数など住民生活に身近な基準は現状維持とする回答も目立ち、地方側からの反発も予想される。 104項目は政府の地方分権改革推進委員会が見直しを勧告した892項目の一部。国土交通省など7府省が応じた合計62項目のうち28項目は勧告通り廃止するなどし、残り34項目は勧告の一部実施など勧告とは異なる見直し内容となった。
 この34項目の主な内容では、国交省が、原則として同居する親族がいないと入居できない公営住宅への入居者資格について単身者でも入居できるように見直すが、入居者の収入は月15万8千円以下と定めている収入基準は維持すると回答した。厚生労働省は、保育所の面積基準について、東京などの大都市部だけ待機児童問題が解決するまでの一定期間に限り緩和する。自治体が特定重要港湾の入港料を設定する際に必要とされる国との協議は「国民経済に影響の大きい港湾」に限定する。一方、勧告を完全実施する28項目は、自治体が地元漁港の区域を指定、変更する際の農相の認可権限の廃止(農林水産省)など。

国が自治体の業務を法令で縛る「義務付け・枠付け」の廃止や緩和を求めた政府の地方分権改革推進委員会の第3次勧告を受け、原口一博総務相は5日、各府省が見直しに応じると答えたのは92項目だったと発表した。「1戸の床面積は19平方メートル以上」などと定めた公営住宅の整備基準を、自治体判断に委ねるなどの内容。ただ、これらの中には保育所の施設基準など、勧告内容と異なったり、一部の見直しにとどまったりした項目が36ある。ゼロ回答分も含め、政府はさらに見直しを進める方針。
 政府は、見直し内容を盛り込んだ地方分権改革推進計画を年内に策定。次期通常国会に新地方分権一括法案として提出する。同相は、勧告が見直し対象とした892項目のうち、地方の要望が強い104項目について、4日までの回答を要請。回答のうち、「見直す」「一部見直す」としたのは62項目だった。104項目以外に府省からの自主回答が30項目あった。 
 勧告通りの見直しは▽都道府県立の児童自立支援施設の職員は、都道府県職員でなければならないとする規定を廃止▽自治体が地元漁港の区域を設定・変更する際の国認可を廃止−など。勧告内容とは異なる見直し項目の一つが、公営住宅の入居者基準。国土交通省は、同居親族がいることを条件としており、この部分は自治体判断に委ねるとしたが、「月収15万8000円を超えない」とする収入基準は残すと回答。保育所の基準では、厚生労働省が都市部に限って面積基準の緩和を容認したが、人員配置基準や調理室の必置規制は「従うべき基準」として残した。
◇府省の主な見直し項目
公営住宅の床面積などの整備基準を条例に委任(国土交通省
公営住宅の入居者資格を条例に委任。親族との同居条件を事実上撤廃(同)
▽大都市に限り、認可保育所の施設面積基準を緩和(厚生労働省
▽市町村の総合計画策定義務の廃止(総務省
▽市町村立幼稚園設置時の都道府県の認可を事前届け出に緩和(文部科学省
▽商工組合認可に関する都道府県の国への協議を廃止(経済産業省
自治体が地元漁港の区域を設定・変更する際の国の認可を廃止(農林水産省

両記事では,地方分権改革推進委員会により取りまとめられた『第3次勧告』に対する政府の対応方針等について紹介.
昨日の2009年11月5日付の本備忘録では,厚生労働省側からの同勧告への対応方針を取り扱ったところではあるものの,本日分は,各個別府省からの対応方針の総体を紹介.正確な資料に関しては,同委員会,内閣府総務省のいずれのHPでは,現在のところ,把握できていない,残念.
総体の対応の様相としては,「地方要望分」と「地方要望分以外」の2種類に分けられており,両記事でも紹介されている「地方要望分」の事項とその「見直し」状況に関して,各府省毎での対応を見てみると,内閣府(2→勧告通り見直し2),文部科学省(30→勧告通り見直し1),厚生労働省(32→勧告通り見直し5,勧告内容とと異なる見通し21),農林水産省(8→勧告通り見直し4,勧告内容とは異なる見直し3),経済産業省(4→勧告通りの見直し3,勧告内容とは異なる見直し1),国土交通省(23→勧告通りの見直し10,勧告内容とは異なる見直し8),環境省(5→勧告内容通りの見直し3,勧告内容とは異なる見直し1)とある.また,「地方要望分以外」では,内閣府(勧告通りの見直し2),総務省(勧告通りの見直し20),文部科学省(勧告通り見直し2),経済産業省(勧告通りの見直し2,勧告内容とは異なる見直し2)の状況にあるという.
各個別回答の内,下名個人的に関心があるのは,2008年9月23日付同年11月13日付の両本備忘録及び,本年,執筆の機会を頂いた各拙稿*1内でも言及させていただいている,地方自治法第2条第4項にいう基本構想制度への対応.同制度に関しても,同委員会の審議過程での見解通りに,総務省からは「策定する義務の廃止」の方針が示されている模様.同方針が具体的な制度的措置が図られた場合には,制度的にも「地方行政制度としての基本構想制度」(前掲・松井望・長野基・菊地端夫2009:84)としての軛から逃れることとなり,今後は,各自治体における同制度の内容・構成は勿論,その策定の有無を含めた「自由度の拡大路線」*2の下での判断が迫られることになる.ただ,「「市長の政治指導による「諸利益の統合」*3 として,「何らかの「計画」が整備されるであろうし,新たな首長のもとでの判断により,旧来の「総合性」を放棄し,新たな「総合性」 による計画が構築されることも予想される」.一方で,「その自由度が高まった場合であっても,個別自治体におけるこれまでの数次にわたる同制度の策定・改定作業を通じた制度整備に関する運用が一つの前提となり,その前提に拘束される慣性が生じることも想定され」ることで,「新たな「総合性」をもった計画内容も,従来の同制度で規定されてきた「総合的」な内容となること」(前掲・松井望2009:22)も想定されなくもない.
自治体運営においても,「実践から学ぶ」*4とすれば,計画策定における慣性という「過去の蓄積を学ぶこともあながち無駄な努力ではない」(355頁)ものの,一方で,「自らの経験や感情によって大きくバイアスがかかった「智恵」が盛り込まれている可能性」(同頁)も想定されなくもない.過去の蓄積と自由度のなかでの,同制度の個別自治体における運用状況は,要観察(と,申しますか,下名自身は,前職以来,同制度から逃れられないようにも思わなくもありませんが).

*1: 松井望「総合計画制度の自由度と多様性」『自治体法務Facilitator』Vol.24.2009年10月号,21−22頁及び松井望・長野基・菊地端夫「自治体計画をめぐる「基本構想制度」の変容と多様性の展開」『年報自治体学会22 自治体計画の現在』(第一法規,2009年)95−101頁

自治体計画の現在 (年報自治体学)

自治体計画の現在 (年報自治体学)

*2:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

*3:西尾勝行政学の基礎概念』(東京大学出版会,1990年)242頁

行政学の基礎概念

行政学の基礎概念

*4:沼上幹『経営戦略の思考法』(日本経済新聞社,2009年)328頁

経営戦略の思考法

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