首都圏の知事と政令市長による「8都県市首脳会議」が18日、さいたま市浦和区で開かれ、地方自治体の裁量権を保障するため、新たに「地方自治基本法(仮称)」を制定するよう国に働き掛けていくことで合意した。環境分野における「首都圏広域連合」も設置する方向でまとまり、政権交代後、初の首脳会議は地方分権改革推進へ向け、積極的な意見が相次いだ。座長は初出席の清水勇人さいたま市長が務めた。
 基本法制定を提案した神奈川県の松沢成文知事は「現行の地方自治法は組織や運営の細部まで規定し、地方自治を保障するというより、国が地方を管理する法律に成り下がっている。大まかなルールは基本法とし、それ以外は条例で各自治体が決められるようにするべきだ」と指摘した。これに受けて「それぞれの地域で実情は異なる。自治体の権限を明らかにすることは大事」(上田清司知事)などと各首長が賛同。新法に関しては8都県市で原案を作成し、新政権に提案していくことで合意した。来年度から本格的な協議を進めていくという。
 地方自治法に基づく環境特化の「首都圏広域連合」については、道州制などを視野に設置する方向で合意した。ただ各都県市で温暖化対策や産業構造に違いがあり、内容を十分すり合わせながら検討することとした。設置されれば、都道府県レベルでは初の広域連合となる。
 また上田知事は、環状道路の整備促進など首都圏の機能強化を提案したほか、地球温暖化対策として今年の6〜7月に熊谷、草加市内で実施した「深夜化するライフスタイルの見直し」に関する社会実験の結果を報告した。(1)2週間にわたり午後10時以降、不要な照明を消す(2)残業時間を短縮する―などした結果、実験前に比べCO2排出量が2・6%減少。店舗の売上などにもほとんど影響がなかったことを発表。今後、深夜化するライフスタイルの見直しについて、各都県市が情報交換を行っていくことにした。清水市長は同市が取り組む電気自動車の普及事業について紹介し、広域的な環境対策の必要性を訴えた。また、来年4月に政令市に移行する相模原市(神奈川)の加入が認められ、来年度から名称を「九都県市首脳会議」とする。

同記事では,8都県市首脳会議における審議結果を紹介.同会議では,「地方自治基本法(仮称)」の制定に向けた働きかけ及び「環境分野における首都圏広域連合」設置を確定された模様.
前者に関しては,2009年11月18日付の神奈川新聞の報道を拝読すると,まず,神奈川県知事より「現行の地方自治法は,地方自治体の組織・運営の細目を規定し,国が地方を管理するための法律に成り下がっている.地方の裁量権を保障するため,地方自治法を改正し,基本法を制定する必要がある」との問題提起が示され,その後,東京都知事からは,「国に提唱するだけでなく,首都圏として具体的な原案を作って提出するべきだ」と同調意見が示され,あわせて,埼玉県知事や横浜市長からも「賛同」された結果,「8首長が大筋で一致」したという.具体的な原案の制定に向けて,「神奈川県はすでに庁内に地方自治基本法を検討するプロジェクトチームを発足させ,検討」されているともされ,「年内にたたき台案を各都県市に示すこと」*1.神奈川県の同取組に関しては,同県HPを参照*2
同プロジェクトチームでは,庁内の2部から構成されており,「政策部」からは「広域行政課」「財政課」「税務課」,「総務部」からは「総務課」「人事課」「市町村課」「法務文書課」がその「メンバー」.「地方自治の理念及び基本原則」,「国と地方の具体的な役割分担及び補完性の原理」,「住民の権利及び義務」,「国と地方の協議の場の設置、国と地方の係争処理の仕組み」,「地方自治に関する法律制定,改正にあたっての基本法の遵守義務など」が検討の「ポイント」とされている模様.同プロジェクトチームの当初の「当面のスケジュール」としては,まず,「平成21年10月下旬」に「プロジェクトチームの設置」を行い,「平成21年12月上旬」には「提案書の取りまとめ」,そして,「平成21年12月中下旬」に,「政府に提案,全国知事会議に報告」の予定とある.同記事のように,八都県市が一体として提唱するとなると,八都県市での合意形成の期間を設けると,「12月中下旬」とされた「政府に提案」等の予定は,若干,後方へと延伸するのだろうか.
地方分権推進委員会から,2001年6月14日に提出された『最終報告』のなかでは,「最近は,地方自治基本法の制定を提唱する動きや地方公共団体自治基本条例の制定をめざす動きが一部に現れ始めている.この種の動きのなかには,米国に見られる自治憲章制度(Home Rule Charter System)に類似した発想,すなわち,地方議会議員選挙制度及び定数,地方議会と首長の権限関係,執行機関のあり方など地方公共団体の組織の形態やその他の住民自治の仕組みを自由に選択する権能を地方公共団体に与えるべきだとする発想が窺われる」との当時の状況認識が整理された後,「わが国の地方分権が更に進展した状況においては,地方自治法等による画一的な制度規制の緩和を求める声は次第に強まるのではないか」*3という,「地方分権推進委員会が最後の意地を見せた『最終報告』」における「起爆剤*4が示されている.同起爆剤,未発にとどまらず,同法への「制度規律」(今日風な表現では,「義務・枠」でしょうか)において,地方分権改革推進委員会等により唱導された「自由度の拡大路線」*5路線のなかで,同記事のような動向が更なる着火となり,2009年10月10日付の本備忘録でも言及し,砂原庸介先生により分析されている,今次の「地方自治法を改正」への潮流にも棹差すこととなるのだろうか.
基本法制定は現代行政法の1つの特徴」*6とは解されるものの,「「基本法」は形式的には法律であるから,他の法律に対して優位性をもつまではいえない」(64頁)ことにもなる.そのため,「地方自治基本法(仮称)」においては,その規定内容のみならず,上記の神奈川県における検討グループにおいても「検討内容」の一つとして位置付けられている「地方自治に関する法律制定,改正にあたっての基本法の遵守義務」という,他法令との関係性もまた論点となりそうか.要経過観察.

*1:神奈川新聞(2009年11月18日付)「「地方自治基本法」制定を国に求めることで合意/8都県市首脳会議

*2:神奈川県HP(神奈川県記者発表資料2009年10月 神奈川県記者発表資料)「地方自治基本法の提案に向けたプロジェクトチームを設置します」(平成21年10月20日

*3:内閣府HP(地方分権推進委員会事務局地方分権推進委員会地方分権推進委員会『最終報告−分権型社会の創造:その道筋−』(2001年6月14日)

*4:西尾勝地方分権改革』(東京大学出版会,2007年)119頁

地方分権改革 (行政学叢書)

地方分権改革 (行政学叢書)

*5:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

*6:大橋洋一行政法?』(有斐閣,2009年)63頁

行政法〈1〉現代行政過程論

行政法〈1〉現代行政過程論