市制施行を目指す三好町の市名問題で、総務省は十四日、同じ市名を認める際には、同名となる相手の首長の同意が必要との見解を示した。同省を訪問した町幹部や徳島県三好市議会の代表らに説明した。
 市の名前について、一九七〇(昭和四十五)年の旧自治省事務次官通達で「既存の市の名称と同一とならないように十分配慮すること」とされており、町からの問い合わせに対し総務省は「相手側の同意」と「十分な距離」の条件を満たせば可能との見解を出していた。この日、同省市町村課は「相手側の同意」について「市長の同意が必要」との見解を示し、議会の同意では不十分とした。距離については「愛知県と徳島県は十分離れている」として条件を満たしているとした。町は十二月をめどに引き続き可能性を探る方針。徳島県三好市の俵徹太郎市長は九月議会などで、他の自治体が配慮を続けてきたことなどを理由に「同意できない」と拒否した。一方、市議会は同名を認める議員が多数派を占め、経済団体などから「同じ名前にちなんで交流を」との意見も出ていた。

同記事では,「三好町」(愛知県内に位置)の市制施行に伴う名称変更に際して,「三好市」の名称を用いる意向があるなか,同市名を用いている「三好市」(徳島県内に位置)からは,同意が示されず,同市の議会関係者及び同町の幹部が,総務省に対して同省としての見解の照会を行ったことを紹介.自治制度を考える上では,重要な事例(と思う).
これまでの経緯や背景等に関しては,同町HP*1や,10月13日付の中日新聞にて紹介*2.また,三好市の見解は,同市HPを参照*3.同町で.2007年10月に設置された「市制施行名称等検討委員会」において審議等が進められてきたなかで,同町が総務省の見解確認を要するとされてきた事項(例えば,次のような事項.同じ名称が既にあったため名称が使えない事例があったのか*4,また,新市が先方からの「異議がなければ可能」なのか又は「相手方からの了解が必要」なのか*5,更には,相手方の意思を表明するものは誰か(市長か,議会か,市民(民間団体等))*6)が,今回の説明により確認されたこととなる.
同見解に基づけば,既に,同町に対して,三好市から提示されている公文書による同名利用に関する異議文書という「拒否権」(veto)の提示だけでは,同名使用に関する拒否は成立しないとも考えられるが,むしろ,「同意」が必要となり,そのハードルはより高いようにも解される.そのため,同市側に「非決定」という拒否権は依然残るとも考えられる.このことからすれば,新市成立時の名称変更においては,同名市からの「同意」が市制施行の「効力要件」となると解すればよいのだろうか.となると,同町で開催された第4回の同委員会で決定された,平成22年1月4日の市制施行*7というタイムスケジュールは,「同意」形成の時間を更に要することとなり,市制施行時期の見直しも迫られることになるのだろうか.要経過観察.
 同記事にもある,市の設置又は町を市とする場合の新たな自治体の名称に関しては,通知(昭和45年3月12日自治振32号)に基づき「既存の名称と同一となり,又は類似することとならないよう十分配慮することとされている」*8とされている.これは,同通知が示される以前の,地方自治法制定後3次の改訂期(1948年)に,金丸三郎によって著わされた注釈書においても,「名称の変更は,市町村の名称と雖もその影響するところが極めて広く,これを軽々に行うべきでないのみならず,同一又は類似の名称は努めて避くべきである」(原文は旧字)*9とも記されており,予てより同一名称(更には,類似の名称)の利用を自粛することは共有化された考え方であったとは考えられてきた.また,当時は,名称変更の条例制定においては都道府県知事の許可を必要としており,条例の効力を発するための有効要件又は「効力要件」)*10ともされていた.そのため,名称変更制度は,知事の後見的監督の性格が強い制度であった.これが,地方分権一括法施行により,同条例制定時には,都道府県知事への協議が必要とされることに改められ,更には同協議は「必ずしも同意を要しない」*11ともされたことで,協議が「効力要件」に関する解釈は示されていない現状にある.つまりは,都道府県との監督関係からは距離を置い制度と,その制度趣旨は改めらているともいえる(ただ,同協議に関しては,「同条例が違法と認められるとき等は,協議が調わないことは考えられる」*12ともされているが,実際に「違法と認められるとき」,そしてその他の局面である「等」とは,具体的に生じるうるのだろうか,という素朴な疑問もある).
ただ,同記事のように,市町村が都道府県との関係において,その自由度が拡大する路線上での制度変化があったものの,通知という形で,市(町村)との関係からの制度的拘束要因が残ることは,近年の地方分権論議の支配的理念ともいえる「自由度の拡大路線」*13からはどのように考えればよいのだろうかという,問題提起を行っているようにも考えられる.そのため,9月18日付の中日新聞にて報道された*14三好市の判断として同通知の内容変更を求める姿勢もまた一つの見解ともいえる.そもそも,今後も同通知に基づく「義務付け」が存置し続けることが適当なのだろうかという疑問もなくはない.難しい課題.

*1:三好町HP(市制施行準備室)「「特別編3新市の名称などの検討について」(広報みよし12月15日号)

*2:中日新聞(2008年10月13日付)「「三好市」名乗れるか三好町 先行する徳島県の市長が反対

*3:三好市HP(広報・広聴)「三好町との名称問題について

*4:三好町HP(市制施行準備室)「第2回市制施行名称等検討委員会」5頁

*5:三好町HP(市制施行準備室)「第4回市制施行名称等検討委員会」3・4頁

*6:三好町HP(市制施行準備室)「第4回市制施行名称等検討委員会」4頁

*7:三好町HP(市制施行準備室)「第4回市制施行名称等検討委員会」8頁

*8:小岩正貴「地方公共団体の名称,事務所の位置」伊藤祐一郎編著『最新地方自治法講座1総則』(ぎょうせい,2003年)225頁

総則 (最新地方自治法講座)

総則 (最新地方自治法講座)

*9:金丸三郎『地方自治法虗義』(近代文庫社,1948年)61〜63頁

地方自治法精義 (1948年)

地方自治法精義 (1948年)

*10:長野士郎『第12次改訂 逐条地方自治法』(学陽書房,1995年)55頁

逐条 地方自治法

逐条 地方自治法

*11:松本英昭『要説地方自治法』(ぎょうせい,2002年)69頁

要説地方自治法―新地方自治制度の全容

要説地方自治法―新地方自治制度の全容

*12:松本英昭『新版逐条地方自治法第4次改訂版』(学陽書房,2007年)61頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*13:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

*14:中日新聞(2008年9月18日付)「「三好市」名乗り厳しく 徳島県三好市長が重ねて拒否