里山や緑地を保全すれば、名古屋駅周辺地区などの都心部でより高いビルの建設を認めます――。こんな制度の導入を名古屋市が検討中だ。高層ビルの容積率の緩和と引き換えに、業者に開発の恐れがある里山を買い取ってもらい保全を図る。里山保全を世界にアピールする場になる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催される来年度中の運用開始を目指す。
 検討されている制度は、2002年施行の都市再生特別措置法が根拠。同法は、高層ビル建設の際、開発業者が敷地内に歩道や広場を整備すれば、建物の建設予定地に占める延べ床面積の割合である容積率を、自治体が緩和できると定めている。特区に指定された地域内で、土地の合理的な利用を進めるのが目的だ。
 名古屋市内では、名古屋駅周辺から伏見・栄までの地域のほか、千種・鶴舞地域、あおなみ線沿線地域を特区に指定。名駅前のミッドランドスクエアやモード学園スパイラルタワーズが建設された際に適用された。1千%だった容積率は、敷地内に広場や地下通路を整備したことで1400%前後まで緩和した。同市は、この制度を拡大解釈。高層ビルを建設する開発業者がビルの敷地内でなくとも、遠隔地の里山や緑地、歴史的建造物を保存すれば、高層ビルの容積率を緩和する制度を検討中だ。里山や歴史的建造物の保全の動きを加速させるのが狙いだ。
 同市は、相生山緑地(天白区)や東山公園(千種、名東、天白区)など約800カ所、計約2800ヘクタールを公園緑地として保存する計画だが、このうち約300ヘクタールは民有地で未買収のまま。同市は順次、買い取り保存する方針だが「すべて買い取るまでに50年から100年はかかる。その間に緑地はどんどん失われる」と危機感を募らせている。保存問題で揺れた「平針里山」(天白区)にも、名駅周辺でビル建設を予定している複数の業者に今回の取り組みを打診したが、すでに建設計画が進行しており、うまくいかなかったという。業者が買い取った緑地をどう評価して容積率の上積みに反映させるのかや、業者が市に寄付せず自ら保存する場合、担保をどう取るのかなど詳細は今後決める。市が緑地保全地域に指定した地区の買い取りを求めることも検討する。運用指針を定めたうえで、来年度の早い時期の実施を目指している。
 市住宅都市局は「COP10も来年度、名古屋で開催される。里山保全が大きなテーマとなるだけに、弾みとしたい」と話している。(塩原賢)

本記事では,名古屋市における,いわゆる「里山」の保全にむけた制度運用の方針を取組.同取組に関する詳細に関しては,現在のところ,同市HPでは把握できず,残念.
本記事によると,都市再生特別措置法の「拡大解釈」に基づき,「高層ビルを建設する開発業者がビルの敷地内」に限定せずとも,「遠隔地の里山や緑地、歴史的建造物を保存」した場合には,「高層ビルの容積率の緩和と引き換え」を行う取組とのこと.
「生産,環境保全,文化の三つの資源の供給置として,計画的に配分し利用すること」*1を期待されつつも減少傾向にある「里山」.2009年12月22日付の共同通信の配信記事では,環境省において「里山保護の支援法を検討」し,「都市内緑地を所管する国土交通省,農地や里山に関係する農林水産省とも調整」*2とも報道.同市の同取組,事業者側に対するいわゆる「市場メカニズムを活用した森林保全の試み」*3の一つとして整理できそう.一方で,本記事においても言及されているように,「緑地をどう評価して容積率」へと反映されるか,という誘因構造次第で,同取引関係への事業者側の参入判断ともなることが想定されそう.同制度の具体化に関しては,要観察.

*1:河合雅雄里山とは何か」河合雅雄林良博編著『動物たちの反乱』(PHP研究所,2009年)52頁

動物たちの反乱 (PHPサイエンス・ワールド新書)

動物たちの反乱 (PHPサイエンス・ワールド新書)

*2:共同通信(2009年12月22日付)「環境省、里山保護の支援法を検討 生物多様性保全で

*3:打越綾子「消費者がつくる「市場」 市場メカニズムによる森林保全の可能性」久米郁男『生活者がつくる市場社会』(東信堂,2008年)52頁

生活者がつくる市場社会 (未来を拓く人文・社会科学)

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