横浜市が、5カ所ある海外拠点のうちロサンゼルス事務所と北京連絡拠点を廃止する方向で検討を進めている。2010年度予算案を編成する中で、事業見直しの対象として俎上(そじょう)に上った。コンベンションや企業の誘致、文化交流などで「国際都市」の確立を目指す横浜市だが、景気悪化による財政難で“前線基地”の規模縮小を迫られる形となりそうだ。
 市設置の海外拠点は1962年10月、ドイツのハンブルク事務所が最初。横浜と同じ港湾都市として選ばれた。その後、中国の上海(市出資の「横浜企業経営支援財団」が運営)、ニューヨーク(米国)、クアラルンプール(マレーシア)、フランクフルト(ドイツ)、北京(中国)、ロサンゼルス(米国)、ムンバイ(インド)に開設してきた。
 現在は、市職員を置く「事務所」がロサンゼルスとフランクフルト、上海の3カ所。現地スタッフのみによる「連絡拠点機能」が北京とムンバイの2カ所にある。市はこれまで北米、中国(アジア)、欧州の3エリアに1事務所を設置する形で展開してきた。設置国内だけでなくエリア全体の商工会議所を回るなどし、現地法人の横浜誘致につなげてきた。横浜市内企業の海外進出や姉妹都市との交流などにも携わっている。
 一方で、2009年度の企業誘致の件数は現在までロサンゼルスが1件、上海が0件、フランクフルトが2件。現地での「掘り起こし」作業は容易には数字に結び付かず、文化交流事業なども結果は目に見えにくい。特に08年度は世界的な不況の中で誘致実績は3事務所で計1件にとどまった。市の担当課は2拠点の廃止について「予算編成中のため答えられない」としながらも、「(一般論として)不要な事業だから廃止になるというわけではない。市全体での優先順位の問題」などと話している。
 財政難下の縮小に、市は新たな戦略を練り始めている。空白地となる北米では、姉妹都市交流を続けるサンディエゴ市との関係を生かし情報収集などができないかを検討。昨年3月に開設したムンバイの拠点機能のように、短期契約で現地法人に業務を委託し効率化を図る手法をさらに活用することなども検討に入れていくという。
 市担当課は「厳しい財政状況下、与えられた武器で最大限の努力をしていく必要がある」と述べ、今後も国際戦略の手をゆるめない考えを示した。10年度予算案編成での検討では、ロサンゼルスと北京の廃止で2400万円の経費削減につながるとしている。

本記事では,横浜市における海外事務所の一部廃止の方針について紹介.同市における海外事務所の取組の詳細に関しては,同市HPを参照*1
本記事も紹介されているように,同市では「ロサンゼルス事務所」「フランクフルト事務所」「上海事務所」が現在のところ設置.主に「市内企業が海外の各地域で行う事業活動を応援」,「各地域の行政や経済などに関する情報収集・提供」,「各国企業・経済機関等の横浜市への誘致」,「各国都市との交流事業にかかわる支援・協力」,「横浜市からのミッションの受入れ・その活動支援」*2が主たる業務.以前には,「クアラルンプール事務所」,「ニューヨーク事務所」が設置されていたものの,前者は「平成15年6月末日」,後者は「平成19年3月末日」に「閉鎖」*3されていたことが分かる.同事務所を通じて「身につけ」ることも想定されている「外交技術」*4もまた「結果は目に見えにくい」のだろうか.
2010年1月5日付の本備忘録において取りあげた道府県レベルにおける海外事務所の設置状況.本記事を踏まえて,政令指定都市レベルでの設置状況を確認してみたところ,横浜市の外には,札幌市,新潟市大阪市,神戸市において独自に海外事務所を設置されている模様.それぞれの設置体制としては,札幌市が1カ国1事務所体制(北京事務所*5),新潟市が2カ国3事務所体制(北京事務所,大連経済事務所,ソウル事務所*6).大阪市が4カ国4事務所体制(シカゴ事務所,シンガポール事務所,パリ事務所,大阪国際経済上海事務所*7),神戸市が,2カ国4事務所体制(シアトル事務所,天津事務所,南京事務所,神戸港埠頭公社所管*8)であることが分かる.
国内外に限らず,自治体における「領域別」*9な領域別な機構.海外事務所という部門は,自治体間での共同処理の可能性も想定されなくもないものの,「地方公共団体の事務の共同処理の改革に関する研究会」により取りまとめられた「報告書」内での「共同処理のメルクマール」*10を参照すると,「事務の処理型」で「事務内容が定型的でない」となり,それも難しいのだろうか.考えてみたい.

*1:横浜市HP(都市経営局国際政策室)「横浜市の海外事務所

*2:前掲注1・横浜市HP(横浜市の海外事務所)

*3:横浜市HP(都市経営局国際政策室)「国際交流

*4:プルネンドラ・ジェイン(今村都南雄監訳)『日本の自治体外交』(敬文堂,2009年)(依然として,amazonでは掲載されていない模様ですね)89頁[rakuten:book:13166676:detail]

*5:札幌市HP(札幌と海外の経済交流)「北京駐在員事務所

*6:新潟市HP(経済・国際部国際課)「新潟市・県の海外拠点事務所

*7:大阪市HP(大阪市市民の方へ国際交流・海外プロモーション)「大阪市の海外事務所

*8:神戸市HP(事業者向け情報産業振興商工業:海外事務所 )「神戸市の海外事務所

*9:金井利之「空間管理」森田朗編著『行政学の基礎』(岩波書店,1998年)166頁

行政学の基礎

行政学の基礎

*10:総務省HP(広報・報道報道資料一覧2010年1月地方公共団体における事務の共同処理の改革に関する研究会報告書(平成22年1月25日))『地方公共団体の事務の共同処理の改革に関する研究会 報告書』(平成22年1月)14頁