政府の地域主権戦略会議は30日、国土交通省の地方整備局など国の出先機関から地方へ業務を移す方針について、希望する自治体から先行実施させる方向で調整に入った。意欲のある自治体を先導役に出先機関の廃止・縮減を進めるのが狙いで、6月下旬にまとめる「地域主権戦略大綱」に明記する方針。
 出先機関の見直しをめぐっては、地方の受け入れ態勢に格差があるため、全国一斉の制度改革は難しい情勢。このため先行自治体の実績を足掛かりに移管を全国に波及させることで、地域における国と地方の二重行政を解消したい考えだ。
 戦略会議は、大綱で示す基準に沿って秋以降、地方に移す個別業務を選定する予定。このうち自治体が早期移管を求める業務は、制度を全国横並びとすることにこだわらず移す。具体的には、埼玉県の上田清司知事らが求めている公共職業安定所ハローワーク)や、単独の都道府県で完結する直轄国道と河川の維持管理などが対象になるとみられる。

本記事では,地域主権戦略会議において,国のいわゆる「出先機関改革」の取組方針を紹介.「希望する自治体から先行」的に「業務を移す方針」の模様.同方針の内容に関しては,現在のところ,同記事のみの報道.
全国知事会に設置された国の出先機関原則廃止プロジェクトチームが取りまとめた『国の出先機関の原則廃止に向けて 中間報告』を拝読すると,「事務移管」に際して,「複数都道府県にまたがる事務などで単独で受け入れることが困難な場合」には,「広域的な受け皿の検討が必要」として,その際には,「道州制など新たな地方制度にまで議論を拡大することなく現行の都道府県・市町村制度を前提に受け入れ体制を検討」*1すべきとして,同会自体でも「具体的な受入体制を提案」する必要性を「最終報告に向けての検討課題」*2として位置付けている.これに対して,2010年5月24日付の共同通信による配信記事では,「国土交通省」では「地方整備局と地方運輸局の業務の大幅な移管に前向きな考え」があるとされており,ただその場合には「自治体同士が連携して業務に取り組む仕組みづくりや出先機関職員の雇用確保などが課題」*3との見解があることが報道されている.
その後,2010年5月20日に開催されて同チーム会合では,「事務の受入体制の検討に当たっては、現行の国の出先機関都道府県単位か地域ブロック単位かという観点や事務・事業の範囲が一の都道府県内にとどまるか否か等の観点から類型化」が図られており,「都道府県ごとに設置されている出先機関」は「原則として都道府県が単独で事務を受け入れる」こと,「都道府県域を越えた地域を管轄する出先機関」に関しては,「事務の対象や範囲が一の都道府県にとどまる場合」は「原則として各都道府県が単独で事務を受け入れる」こと,また,「事務の対象や範囲が複数の都道府県にわたる場合」でも,「基本的には各都道府県への移管を検討」されたうえで,「一定の連携が必要な場合に広域連合や協議会等の連携組織を設置する」*4との方針を検討されている.
具体的には,次の3項目について検討されている.まずは,「複数の都道府県にわたる直轄国道」である.ただし,直轄国道の場合には,「実務上は複数の国道工事事務所が一の都道府県内で所管区域を定めて分担管理」しており「事業規模も概ね一の都道府県にとどまる場合がほとんど」として「原則として各都道府県で受け入れ」「必要な連携調整は協議会等を設置」*5するとある.次いで,「複数の都道府県にわたる直轄河川」である.ただし,直轄河川に関しては,「実務上は複数の河川工事事務所が所管区域を定めて分担管理」し「事業規模も概ね一の都道府県にとどまる場合が多い」ものの「治水・利水にかかる上下流の利害調整や大規模災害への対応など特に緊密な連携体制の確立が必要」との認識から「広域連合を設置して移管を受けることが望ましい」*6との見解が示されている,最後に,「都道府県を越えて事業展開している事業者に対する許認可や検査・処分」である.これらについては,「広域的に事業展開している事業者に対する許認可等」に関しては「申請・許可を本社所在の都道府県が一元的に取扱い,その情報を関係都道府県に提供するなどの仕組みをあらかじめ確立しておくこと」,「検査や処分」については「事案が発生した都道府県が当該事務所に立入検査を行う」とともに,「他都道府県に所在する本社等に対し管轄圏域を越えて権限を行使できる「域外権限」を事案発生都道府県に付与すること」*7との,検討がなされている.
ただ,本記事の報道されているように,「希望」に基づく「移管」がなされる場合,その手続は,具体的にはどのような手続が想定されるのだろうか.例えば,「自治体」からの「希望」が示された場合,個別府省との協議を経ることなく「移管」がなされるのだろうか.また,「協議」を経る場合,それは「同意」に基づく協議となるのだろうか.「移管」に至る手続の設計次第では,地方出先機関論議を,一元的に審議を図ることが想定されいる,地域主権戦略会議の場から,個別自治体と個別府省間という,個別的交渉・協議の場へと「移管」し,結果的には,「拒否権」*8の頑強性を個別府省に付与することも想定されなくもない.
また,整備された手続を経て,「自治体」から「希望」が示され「移管」されるとの判断に至った場合,各省の設置法が,その度毎に改正されることになるのだろうか.また,上記の全国知事会による提案の様に,原則「一の都道府県」への移管となる場合においても,個別都道府県から「移管」の「希望」が提示され,具体的に移管された場合,2008年3月8日付の本備忘録でも触れた,いわゆる「まだら分権」状態になることが想定されなくもない.仮に,上記の「具体的な受入体制」が具体化しない場合であっても,長期的には「相互参照と横並び競争」*9を通じた,「まだら」の解消が想定されているのだろうか.興味深い.また,本記事では,その「希望」を示す主体を「自治体」と報道.この場合,現行の都道府県に限定されることなく,基礎的自治体においてもまた,同「移管」の「希望」の提示が可能となるのだろうか.
今後の同会議における検討状況は,要確認.

*1:全国知事会HP(全国知事会の活動全国知事会議・委員会・会議「国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム会議」の開催について(2010年3月23日))「資料1国の出先機関の原則廃止に向けて 中間報告(確定版)」6頁

*2:前掲注1・全国知事会([国の出先機関の原則廃止に向けて 中間報告(確定版))24頁

*3:共同通信(2010年5月24日付)「国交省、整備局移管に前向き姿勢 出先機関の公開討議

*4:全国知事会HP(全国知事会の活動全国知事会議・委員会・会議「国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム会議」の開催について(2010年5月20日))「資料1−1 国の出先機関の原則廃止に向けて(素案)」32頁

*5:前掲注4・全国知事会(国の出先機関の原則廃止に向けて(素案))33頁

*6:前掲注4・全国知事会(国の出先機関の原則廃止に向けて(素案))33頁

*7:前掲注4・全国知事会(国の出先機関の原則廃止に向けて(素案))34頁

*8:ジョージ・ツェベリス『拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか』(早稲田大学出版会,2009年)25頁

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

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*9:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶応義塾大学出版会,2002年)287頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

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