かつて黒塗りの高級車が一般的だった知事の公用車。しかし、厳しい財政事情や、「県民目線」を意識して「脱黒塗り」の動きも出てきている。地域事情や、仕事の効率を優先して車種を選ぶ自治体もあり、「威厳」のある知事公用車は変わりつつある。
 「県財政も厳しい」と、黒のセンチュリーを売却して薄黄色のプリウスを選んだのは福井県だ。価格は197万円。県は「黒塗りでないので、公務先の駐車場で一般車と間違われて誘導されることもあるが、特に問題はない」と話す。最近の人気はワンボックスタイプ。7人乗りアルファードハイブリッド車(HV)に乗り換えた宮城県は「従来2台使った出張が1台ですむ」と話す。大阪府橋下徹知事も同車種だ。5年リースで373万円。「SPや秘書も乗る。レクチャーをする部長も一緒に乗れば、セダンでは無理」という。
 宮崎県の東国原英夫知事も、当選直後の2007年3月に「経費節減のため」と前知事が乗っていた黒塗りの知事公用車「センチュリー」(96年式)を売却。現在、職員用に340万円で購入した「エスティマハイブリッド」(09年式)に乗る。県秘書広報課は「一度に8人が乗れて現場に行くまでに車内で打ち合わせができて便利」。
 高知県では、橋本大二郎前知事時代の07年に知事公用車そのものを廃止し、タクシーに切り替えた。年約400万円の歳出削減を狙った。だが、翌年7月、尾崎正直知事は公用車を復活。県秘書課は「車内で政策の話をするので、情報管理の点で懸念があった」。車種は白のエスティマHV(423万円)を選び、秘書課職員が通常業務の合間に運転しているという。
 一方、これまで通りの黒塗りなのは岩手県。10月の県議会で、今年1月に購入した知事の公用車が「高額では」と議論になった。車は、レクサスLS600h。1407万円のHVで、排気量5千ccの黒塗りだ。県秘書課によると、「車内では電話したり資料を読んだりと、執務室としても使う」。ワンボックスタイプも検討されたが、「山間地でカーブが多く、走行安定性も重視した」。2年前の岩手・宮城内陸地震の際、ブラジル出張中だった知事が急きょ帰国、徹夜で、公用車を使って成田空港から岩手に戻った経緯も踏まえたという。
 今月、岩手と同じレクサスのHV(1490万円)に切り替えた富山県は「積雪が多く、山道があり、災害現場の視察でも安全性を保てることが大事。静謐(せいひつ)性も考慮した」。同車種の大分県は「公式行事には黒塗りという社会通念がまだ一般的」と説明する。石原慎太郎都知事も、同車種のレクサスだ。色はシルバーで、5年リース契約で計1340万円。移動の際の執務環境や安全性、走行安定性を勘案したという。買い替えず、「全国で一番古い車」というのは鹿児島県。97年に購入された黒のセンチュリーは、今年3月時点で10万8千キロ走った。事務方が更新を伊藤祐一郎知事に打診したが、知事は「これでいい」。県も今は「古いといって問題があるわけではない。走れなくなるまで使う」との考えだ。PR効果を期待する県もある。エスティマのHV(527万円)を選んだ青森県は県内にHV部品の製造工場があることも考慮に入れた。
 知事ではないが、公用車で一石を投じたのが名古屋市河村たかし市長。今年5月から軽自動車のタント・エグゼを、35カ月間で51万円のリース契約で使っている。(疋田多揚)

本記事では,都道府県知事の公用車の車種の現状について紹介.非常に興味深い記事.
本記事では,「黒塗り」群と「脱黒塗り」群に大別されて紹介(同分類以外にも,「廃止」群も観察可能なのでしょうか,要確認).まず,「黒塗り」群は,「執務室」としての利用も考慮をされた岩手県,同じく「執務環境」と「安全性」を考慮された東京都,安全性でも「積雪」「山道」という「地域事情」を考慮された富山県,いわば,「経路依存」により「更新」時期を超えても「相対的な安定」*1な利用を行う鹿児島県,「PR効果」を期待した青森県.一方,「脱黒塗り」群に関しては,「最近の人気はワンボックスタイプ」とも紹介.「財政事情」による福井県,同じく財政事情により宮城県,そして,「SPや秘書」の同乗とともに,同乗中の「部長」からの「レクチャー」の機会としても利用することを考慮され,同タイプを選択された大阪府,同様に,「車内で打ち合わせ」を考慮した宮崎県や,「車内で政策の話をする」し「情報管理の観点」を考慮された広島県,という状況にある(他の都道府県についても,要確認).
「黒塗り」群に属し,「地域事情」を車種選択の理由に整理されている富山県に関しても,2010年10月27日付の富山新聞による報道*2を拝読させて頂くと,「公用車は動く知事室そのもの」「一定の執務環境が必要」との見解を,2010年10月26日に開催された同県知事の「定例記者会見」*3で示されている模様,なるほど(同「定例記者会見」の概要は,現在のところ,公表されておらず,公表後要確認.).そのため,「黒塗り」群と「脱黒塗り」群の何れの群においても,公用車とは,知事の移動手段のみならず,執務空間の一つでもあり,「個室主義」*4的に「黒塗り」を執務において利用されている知事,一方で,「大部屋主義」*5的に「脱黒塗り」を執務において利用される知事とも整理ができそう.加えて,「居は気を移す」*6ではないものの,乗車される群により,各知事の執務スタイルも変化するものなのだろうか.こちらも興味深そう.

*1:ポール・ピアソン『ポリティクス・イン・タイム』(勁草書房,2010年)67頁

ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)

ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)

*2:富山新聞(2010年10月27日付)「環境配慮でハイブリッド主流 富山県内首長の公用車

*3:富山県HP(知事室知事記者会見(平成22年度))「定例記者会見(平成22年10月26日(火))

*4:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)183頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*5:大森彌『官のシステム』(東京大学出版会,2006年)73頁

官のシステム (行政学叢書)

官のシステム (行政学叢書)

*6:前掲注5・大森彌2006年:65頁