戸田公明大船渡市長が就任し、1カ月が経過した。選挙戦で掲げた公約の具現化はこれからといったところだが、庁議には毎回自らで紙にまとめた「レジュメ」を作成して臨み、普段はマイカーで登庁するなど、こだわりが垣間見える。2月以降、新年度予算や新魚市場工期延長の関連議案を審議する議会を控える中、市政発展へのリーダーシップとともに、独自性をどう織り交ぜるか注目される。
通常はマイカー登庁
 戸田市長は昨年11月21日に投開票が行われた市長選に出馬し、三つどもえの混戦を制して初当選を飾った。4期16年間務めた甘竹勝郎前市長から市政を引き継ぎ、12月3日から任期をスタートさせた。就任あいさつや市議会12月定例会での一般質問などでは、選挙戦で掲げた「多様な地域課題の克服に挑戦し、産業振興を推進して市民所得の向上と人口減少の歯止めに全力を尽くす」を強調。業界関係者と話し合う場を多く設け、生産性向上の仕組みづくりを進める意欲を示している。12月以降、市内外の関係先を訪問し、あいさつを重ねる日々が続く。今月中旬も、仙台市や東京都に出向く日程が組まれている。戸田市長は「あいさつ回りが一段落した段階で、来年度の予算査定をしながら、選挙で訴えた施策実現に向けてのステップを踏み出していきたい。一気には難しいけれども、コミュニティーバスの調査費など、実現できそうな部分から少しずつ盛り込みたい」と語る。
 就任当初から、庁内では「戸田カラー」が垣間見える光景も。その一つが、部長らが出席し、週1回ペースで行われる庁議。時間は30、40分程度で前市長時代と変わりないが、これまで毎回、戸田市長が作成したA4サイズ数枚の「レジュメ」が配られた。12月3日に開かれた初回の庁議では、選挙公報やビラで訴えてきた内容をまとめた。翌週は、港湾や農林漁業など各分野別に活性化策をまとめた「私案」を提示した。月2回発行している市広報について「地域課題克服へのメッセージをもっと織り込むべきでは」と提案した庁議も。これまでは、イベント告知や事故防止などの啓蒙記事が多い一方、産業振興に向けた記事が少ない傾向を書面でまとめた。自身によるレジュメ作成は、今後も続ける方針。狙いについて「誤解を招くことがない。私が考えていることを、皆さんと情報共有したい」と語る。
 現在、庁内では平成23年度を初年度とした市総合発展計画の策定作業が進む。先月27日の同計画審議会で示された基本構想素案では、市を取り巻く諸情勢・課題として少子高齢化や高度情報化、景気低迷による産業の厳しさにふれ、市長が掲げる「多様な地域課題の克服」への意欲もにじませた。同じく選挙戦で掲げた「まちづくり条例」の策定も盛り込んでいる。一方、猪川町にある自宅からは通常、公用車による送迎は受けず、マイカーで登庁。「通勤距離も短く、できるだけ自分で運転し、余計な経費をかけたくないという思いもある」と語り、当面は続ける意向を示している。
 市役所を出ると、対外的なイベントでは主催者や来賓として、一般市民らを前にあいさつを行う機会が多い。前市長との比較もあって「原稿を読みながら語る時間が多い」との指摘も聞こえる。これに対し、戸田市長は「そこは弱い点かもしれない。これまで、どちらかと言えば“技術屋”の作業時間が長かった。行政知識が自分の中にもっと入れば、徐々に減ってくると思う。今は正確なメッセージを伝えることに徹している」と話している。2月に入ると、新年度予算案を審議する議会を迎え、新魚市場建築工事の工期延長に伴う関連議案も提出する見込み。工期延長は2回目となるため、議員からは厳しい批判も予想される。戸田市長は関係部署に対して、情報を充実させた資料を出して説明するよう指示を出したという。新魚市場整備は今年最大の目玉事業であり、戸田市長自身も議員らに説明を行い、理解を求める機会も予想される。また、産業活性化に向けて関係者と協議する場を設ける意向を示しており、どのような姿勢で市政発展への施策をまとめあげるか、コミュニケーションのあり方も今後注目されそうだ。

本記事では,大船渡市における新市長着任後の取組を紹介.
2009年10月23日付の本備忘録にて記した,下名の中心的観察課題である「自治体内会議体」の観点からは,本記事中段における,同市に設置された庁議の運営風景を窺うことができ,大変参考になる記事.
同市の「庁議等運営規程」*1を拝読させて頂くと,同規程に規定されている同市の会議体は,同規程第1条により「行政事務の総合的調整及び効率的運営を図る」ことを目的として,「庁議」と「部課長会議」の「複層式」*2を採用.前者の庁議では「市の行政運営に関する基本方針及びこれに係る執行計画に関すること」「予算の編成方針に関すること」「重要な新規事業並びに重要施策の決定及びこれに係る執行計画に関すること」「重要度の高い市有財産及び公の施設の取得,用途変更,処分に関すること」「前各号に定めるもののほか、市行政運営の重要事項に関すること」,後者の部課長会議では,「市勢総合発展計画など長期の事業計画の策定及び変更に関すること」「当該年度の重要な事業計画の策定及び変更に関すること」「重要行事に関すること」「行政機構及び事務改善に関すること」「職員の研修計画に関すること」「年度予算の編成、執行についての基本計画及び決算の見通しに関すること」「条例,規則の制定改廃で市長が必要と認めたもの」「その他市長が必要と認める事項」と,部課長会議における審議事項は,基本的に「限定列挙」方式に準じており,方や,庁議における審議事項がより包括的・概括的事案の審議に対応ができるようでもある.前者の「庁議」に関しては,同規程第2条に基づき「市長,副市長,教育長,部長,室長,支所長,会計管理者,教育次長,企画調整課長,活力推進課長,秘書広聴課長,総務課長,財政課長,議会事務局長及び水道事業所長」がその構成員.開催に関しても,同規程第2条第3項に規定されているように,「市長が必要の都度招集し,主宰」されることもあり,市長による開催の主導性や柔軟性も反映される運営が可能な模様.
本記事では,上記のような庁議において「レジュメ」を毎回提出されていることを紹介.同「レジュメ」を,「政府アジェンダ」と位置付けることが適当か「決定アジェンダ*3として位置づけることが適当であるかは内容次第ではあるものの,「アジェンダを掌握」*4される様相は窺えそうでもあり,興味深い.ただ,同規程第7条に基づき,協議案件に関しては「部長等又は課長等は,所掌する事務で庁議等において審議すべき案件があるときは,あらかじめ庁議等担当部長又は課長と協議しなければならない」とされ,「協議により庁議等に要旨及び資料を必要とする場合は,あらかじめ庁議等担当課長に送付しなければならない」ともされている.本記事を拝読させて頂く限りでは,同市長が提出される「レジュメ」という審議案件に関してもまた「庁議等担当部長又は課長と協議」がなされるものなのだろうか.はたまた,同規程にいう「部長等又は課長等」の「等」には,市長が含まれないと解することが適当なのだろうか.既存の協議案件の付議手順・経路と同市市長の「レジュメ」の提出手順・経路との棲み分けの状況は,要確認(下名個人的にも「レジュメ」も拝読したいですね).

*1:大船渡市HP(大船渡市例規集)「庁議等運営規程」(昭和50年9月1日訓令第10号)

*2:松井望「首長と事務機構−首長の意思決定機構を支える仕組みとしての庁議制度−」『都市とガバナンス』Vol.12,2009年9月,24頁

都市とガバナンス 第12号

都市とガバナンス 第12号

*3:John W. Kingdon(2002)Agendas, Alternatives, and Public Policies,Longman Pub Group,4.

*4:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),61頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

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