仙台市の非常勤行政委員に月額で報酬を支払うのは勤務実態に合わず不当だとして、仙台市オンブズマンが報酬の支出差し止めを求めた訴訟の判決で、仙台地裁は15日、「勤務の実情は常勤職員と懸け離れており、月額報酬は著しく不合理」と違法性を認め、奥山恵美子市長に委員1人当たりの月額報酬10万1000円〜29万8000円の支出差し止めを命じた。

自治体敗訴、全国2例目
 オンブズマンによると、非常勤行政委員に対する月額報酬の支出差し止めを命じた地裁判決は、2009年1月の大津地裁に次いで全国で2例目。
 差し止めの対象は有識者から選ばれる監査委員と、人事、市と区の選挙管理、教育の各委員、委員長約30人分。地方自治法によると、非常勤職員の報酬は日当制が原則だが、市は条例で例外規定を設け、委員らの報酬を月額支給している。関口剛弘裁判長は06〜09年度の勤務実態と報酬額について検討。比較的報酬額が低い市議選出の監査委員を除き、「月平均の勤務日数は3日未満で、1日当たりの報酬額は、国が定める報酬限度額の約2.0倍〜約4.2倍に上る。各委員が常時待機しているとも認められない」と指摘した。その上で「市財政が容易に好転するとは考えにくい状況で、市や市議会が(月額報酬制を定めた)条例の改正を検討した形跡はない。是正や検討に必要な期間が経過しており、市議会の裁量権の範囲を逸脱し、違法だ」と認定した。市議選出の監査委員については「著しく不合理とはいえない」と述べ、支出差し止めの対象とはしなかった。オンブズマンは09年7月、月額報酬の支払いについて住民監査請求。市監査委員が09年9月「条例の規定は違法とはいえない」として請求を棄却したため、オンブズマン仙台地裁に提訴した。

◎「画期的な判決」オンブズマン評価
 仙台市非常勤行政委員の月額報酬支出差し止め訴訟で、原告の仙台市オンブズマンは15日の判決後に記者会見し、「画期的な判決。税金の無駄遣いをなくしたいという市民の問題意識に正面から応えた」と評価した。
 オンブズマンは訴訟で、月額報酬を規定する条例は「勤務日数に応じて支払う」と定める地方自治法に違反し無効、と主張。地裁は訴えをほぼ全面的に認めた。オンブズマンの斎藤拓生弁護士は「報酬は勤務の対価として実態に見合わなければならない」と強調する。オンブズマンの試算では、支出が差し止められると、年間約6000万円が節約できるという。政令市では大阪、名古屋両市がことし4月、大半の非常勤行政委員の報酬を日額制に改めるなど、見直しの動きが広がっている。仙台市で報酬を日額制に変更するには、市長が審議会に諮問し、答申を受けて条例改正案を市議会に提出。議決を得る必要がある。オンブズマンは「市は条例を改正しなかった不作為を真摯(しんし)に反省し、控訴をしないでほしい。市議会も日額制に改めるよう直ちに措置を講じるべきだ」と指摘する。奥山恵美子市長は「月額支給に関する市の主張が認められず残念だ。判決を精査して対応したい」との談話を発表した。

◎公金支出に市民感覚
 【解説】 仙台市の非常勤行政委員の月額報酬訴訟で、仙台地裁は、委員の勤務実態を詳細に分析して報酬の支出差し止めを命じた。支出について行政や議会の裁量を広く認めてきた流れに一石を投じたと言える。
 地裁は訴訟で、差し止め対象の委員らの証人尋問を実施。「本業に支障はない」(人事委員)、「総選挙だからといって、大変ということはあまりない」(選挙管理委員)などの証言を得た。
 地裁は膨大な議事録も読み込んだほか、市に対し、震災後に報酬の見直しを検討したかどうかを確認するなど、報酬の妥当性を丹念に検証した上で、「市の報酬規定は、法が議会に与えた裁量権の範囲を逸脱している」と厳しく指摘した。
 非常勤行政委員の月額報酬の支出差し止めを求めた訴訟は、差し止めを命じた2009年の大津地裁判決の後、原告側が敗訴するケースが相次いでいた。仙台地裁がこの傾向に待ったを掛けた背景には、仙台市の深刻な財政状況がある。
 市債残高は11年度、約8000億円に増加。震災後はさらなる財政支出を迫られる。急務となっている震災からの復旧・復興や被災者の生活再建を考えれば、1円の無駄も許されない状況だ。
 市と市議会が引き続き市民感覚に沿った改正を怠れば、被災した市民の信任を失うのは明らかだ。仙台地裁では、宮城県の非常勤行政委員報酬についても同様の訴訟が係争中だ。今回の判決を受け、県の対応も注目されている。
水野良将)

本記事では,仙台市における行政委員会委員に対する報酬が「月額」とされていたことに対して,地方自治法に反するとして,支出差し止めを仙台地裁が命じたことを紹介.
2009年1月23日付の本備忘録にて取り上げた,大津地裁による行政委員会委員報酬の「月額制」に関する違憲判決.地方自治法第204条第1項にある職の報酬に関しては,確かに,同条第2項では,「前項の職員に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを支給する」とされるものの,「条例で特別の定めをした場合は,この限りでない」とも規定されており,これは,「実際問題としては,非常勤職員の中にも勤務の実態が常勤職員とほとんど同様になされなければならないものがあり,その報酬も月額或いは年額をもつて支給することがより適当であるものも少なくな」*1ことによるものと各自治体では解され,各自治体毎で行政委員会委員への報酬の支払方式が確定されてきたこととされている.
一方で,同判決を受けて,同年2月12日付同年8月23日付同年11月25日付2010年2月20日付同年3月21日付同年7月6日付2011年3月8日付,の各本備忘録にて記録したように,まさに「立法法務にフィードバックしていく」「評価・争訟法務」*2として「政策波及」*3する傾向がこれまでも観察できる.
同判決による,報酬制度の「見直し」が更に進められることにもなるのだろうか.要経過観察.

*1:松本英昭『新版逐条地方自治法第4次改訂版』(学陽書房,2007年)665頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*2:出石稔「自治体における「評価・争訟法務」の意義と課題」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)27頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

*3:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),250頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

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