政府は26日、地域主権戦略会議(議長・野田佳彦首相)を首相官邸で開き、国の出先機関改革の方針を取りまとめた。国土交通省の地方整備局など国の出先機関を廃止した後に業務の受け皿となる広域組織について、域内の都道府県知事らの自主運営による「合議制」を基本としつつ、広域組織が希望すれば、各知事とは別に独立した長を置く「独任制」も選べるとした。政府はこの方針に基づき、来年の通常国会に特例法案を提出する方針だが、国の関与が残りやすい独任制を残したため、野党の合意が得られるかは微妙だ。
 方針は広域組織について、地域の自主性を尊重する内閣府案に基づき「構成団体の長をメンバーとする会議を置く」と明記。知事や政令指定都市の市長による合議制が、あくまで基本となるとの考えを示した。
 一方で広域組織には「権限と責任を有する長を置く」とした上で「(長は)構成団体の長との兼職を妨げない」と記述。知事以外でも広域組織のトップになれる余地を残し、国の関与を残したい国交省などの案にも配慮を示した。その他は基本的に内閣府案が採用された。まずは業務受け入れを希望している関西、九州を念頭に広域組織のあり方を検討し、区域として必ず含まなければならない都府県(密接関係地域)を、特例法に基づく政令で定める。広域組織に持ち寄る事務・権限については各自治体の自主性に任せ、政令市の加入も強制しない。広域組織の解散や、広域組織からの脱退については、別の法律で定める。大規模災害時の対応については、国交省などの案を踏まえ、国交相が指揮監督を行うなど、国が関与する余地を残した。
 野田首相は会議で「詳細な制度設計に入り、来年の通常国会への法案提出に向け最大限の努力をしていく。その際は(府省などによる)変な地雷が入らないように、細心の注意を払っていきたい」と述べ、権限移譲に抵抗する各府省をけん制した。【大場伸也】

本記事では,地域主権戦略会議の審議内容を初会.2011年12月26日に開催された第15回会議では,「出先機関の原則廃止」と「補助金等の一括交付金化」*1に関して審議.本記事では,前者の出先機関の原則廃止に伴う,「広域的実施体制」に関して紹介.同体制に関しては,同回配布資料を参照*2
同資料を拝読させて頂くと,まず,「執行機関の在り方」としては.「権限と責任を有する長を置く(構成団体の長との兼職を妨げない)」,「構成団体の長をメンバーとする会議を置く」こと.そして「専任の執行役(仮称)を置くこ」とされている.ただ,「制度の詳細については引き続き検討」ともある.二つめに「議会の在り方」に関しては,「常任委員会等の設置,定例会の回数増や会期の長期化等について広域的実施体制の議会の自主的な取組を促す」として,組織規制を特段求めるものではない模様.ただし,三つめとしては「監査・透明性の確保」が明記されており,「包括外部監査契約の締結を義務付け」られるとともに,「移譲事務の実施状況を広域的実施体制自ら検証し評価する仕組みを特例法に基づく基本方針で定める」*3ことともされ,移管される事務の実施管理が確保される.
四つめとしてその「広域的実施体制の区域」に関しては,「ブロック単位で出先機関の移譲を受ける広域的実施体制の区域として必ず含まなければならない都府県の区域を定める」こととされており,構成都道府県の筆置とされる模様.区域の順序としては「まずは,関西,九州両地域を念頭に区域の在り方を検討する」とも記載されており,必ずしも全国一斉に区域割りが確定されるのではなく,関西,九州から検討されることとなる.「領域別」*4に,そして漸進的な検討に加えて,そして,実際に設置された場合,含まれない都道府県が生じる,「まだなら」な「広域的実施他体制」の区域となる虞も想定されなくもないが,「まだら」の解消に向けた審議もあわせて行われるのだろうか.なお,「北海道,沖縄県」に関しては「一の道県で出先機関の事務・権限のブロック単位での移譲を受けられる取扱いとする」とされている.
五つ目としては「組織の安定性、永続性」も明記.「国の出先機関の事務・権限のブロック単位での移譲を受けた広域的実施体制が解散する場合及び構成団体が脱退する場合の手続等は,別に法律で定める」とあり,「当該法律が定められなければ,解散、脱退はできない」とある.地方制度調査会では,「一部事務組合等からの脱退について予告を行うことで一定期間経過後に脱退を可能とする仕組みを導入」*5とする意見が示される一方で,当該広域的実施体制に関しては,その「離脱」*6の選択は,制度的には厳格な制約とされている.六つ目としては,「効果的・効率的な広域行政の推進」を図るために,「構成団体の事務・権限を持ち寄ることにより,広域行政をより効果的・効率的なものとする」こと,「政令市の加入を促進する」ことも明記.
七つ目としては,その「移譲対象となる事務・権限」に関するもの.移譲対象事務は「出先機関単位で全ての事務・権限を移譲することを基本」とされる.また,「事務区分,国の関与(指示,同意,許可等),並行権限行使について検討した上で,なお不都合が生じる場合には,移譲の例外となる事務・権限とすることを個別に検討」することになる.八つ目として,「事務区分,移譲事務に係る国の関与(指示,同意,許可等)の在り方,並行権限行使」に関しては,「個別の事務・権限ごとに,まずは現行法制に照らして検討を行」うこと,そして,「不都合が生じる懸念があれば,対応策を柔軟に検討」*7ともされる.また,「個別の作用法令に基づかない様々な事務」に関しては,「事務の位置づけを明確化するため」に「可能なものは個別作用法に規定することを基本」とすること,そして,「それ以外の事務についても,特例法に根拠規定を設ける等の措置を含め,その法制的な在り方について検討」*8するともされている.更に,「新たに必要となる事務」は,「出先機関の移管が行われた地域」で「他の地域で出先機関が処理することとなる新たな事務」に関しては「広域的実施体制が処理することを基本に,法令上の手当て等について検討」*9するともあり,「横並び競争」*10の制度化とも整理ができそう.
九つ目として,「大規模災害時等の緊急時のオペレーション」に関しては,「大規模災害時等に全国の人員や資機材を結集し現場力・統合力・即応力をもって組織的・機動的に対応できる」ことを目的には置くものの,「詳細については引き続き検討」*11の扱いとされている.
また,「人員の移管」に関しては,「移管する要員規模の決め方,移管の方法,身分の取扱い.処遇上の取扱い等」の以下の項目に「重点を置いて検討を進める」こととされている.

  • 移譲される事務・権限に従来国で要していた要員数がそのまま地方で必要となる要員数となることを基本とする.
  • (別に辞令を発せられない限り)事務・権限の移譲の日において,移譲先の職員となることとし,移管の前後において,職員の就く官職の職務と責任は同等とすることを基本とする.
  • 給与,休暇,服務については,移管先の条例等に拠ることとし,退職手当については,国,地方の勤続年数を通算の上,最終退職官署において支給する.共済については,国家公務員共済組合の組合員から地方公務員共済組合の組合員になる.
  • 移管前後で国・地方を通じて公務能率を維持・向上させる必要があることから,人事交流を含むキャリアパスや採用における任用上の配慮,研修,人事記録等の引継ぎ等の必要な措置を講ずるものとする.

最後に,「財源」に関しては「移譲される事務・権限の執行に要する財源」は「改革の理念に沿った必要な措置を講ずる」*12と記載されている.
同資料では,「執行機関の在り方」「広域的実施体制の区域」の具体的な区域,「移譲対象となる事務・権限」に関する「事務区分,国の関与(指示,同意,許可等),並行権限行使」,「大規模災害時等の緊急時のオペレーション」,「個別の作用法令に基づかない様々な事務の取扱い」,「新たに必要となる事務の取扱い」,「人員の移管」に関しては「検討」と資料には記載されているものの,「平成24年通常国会に特例法案を提出することを目指す」*13場合,今後のこれらの「詳細設計」も,要経過観察.

*1:内閣府HP(内閣府の政策地域主権改革地域主権戦略会議地域主権戦略会議会議開催状況)「第15回地域主権戦略会議 議事次第・配付資料(平成23年11月26日(月))) 」

*2:内閣府HP(内閣府の政策地域主権改革地域主権戦略会議地域主権戦略会議会議開催状況第15回地域主権戦略会議 議事次第・配付資料(平成23年11月26日(月) ))「資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案)

*3:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))1頁

*4:金井利之「空間管理」森田朗編著『行政学の基礎』(岩波書店,1998年)166頁

行政学の基礎

行政学の基礎

*5:総務省HP(組織案内審議会・委員会・会議等地方制度調査会会議資料第30次地方制度調査会第5回専門小委員会(開催日:平成23年11月28日))「資料1 地方自治法改正案に関する意見(案) 」(平成23年8月,総務省自治行政局)1頁

*6:A.O. ハーシュマン『離脱・発言・忠誠』(ミネルヴァ書房,2005年)25頁

離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)

離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)

*7:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))2頁

*8:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))3頁

*9:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))3頁

*10:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),256頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

*11:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))2頁

*12:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))3頁

*13:前傾注2・内閣府(資料1‐2広域的実施体制の枠組み(方向性)(案))1頁