横浜市が目指す2013年4月に保育所の待機児童をゼロにする目標の達成に“黄信号”がともっている。約40年間、「暗黙の了解」(福祉関係者)とされてきた、各自治体による認可保育所の面積基準の独自解釈について、厚生労働省が事実上認めない意向を昨年10月に通知。これを受け、横浜市は各保育所で定員減などの対応を迫られている。市こども青少年局は「ゼロ目標は変わらないが、とても厳しい」と苦慮している。
 通知では、0〜1歳のほふく(伏せた状態で移動)に関わる面積基準について、ほふくしない子ども1人につき1・65平方メートル以上、ほふくする子ども1人につき3・3平方メートル以上と定めた最低基準の厳守をあらためて求めている。ほふくを始める時期については「0歳児の相当数、1歳児のほとんどがほふくする」とし、市こども青少年局は「通知から判断すると一律3・3平方メートル以上にするしかない」と話す。
 市こども青少年局などによると、市や県は1969年から独自解釈で0〜1歳児の必要面積を二つの基準の平均値「2・475平方メートル以上」で運用。市内には面積に余裕のある保育所も多くあったが近年、市の待機児童対策により、独自解釈に基づき受け入れ数を増やしていた。担当者は「目いっぱいの状態。通知に従うと、現状では基準を満たさないことになる。施設に影響が出るのは避けられない」と話す。通知は省令で定められていた児童福祉施設最低基準を各自治体の条例で定めるよう法改正されたのを受けて出されたもので、条例は遅くとも13年4月までに施行されなければならない。厚労省保育課は「国の考えを示した。きちんと対応してほしい」と話す。
 市こども青少年局は13年4月以降に開所予定の保育所には3・3平方メートル以上の確保を指導しているが、既存施設については「検討中」と頭を悩ます。4月には市内に48認可保育所が開所するが、入所申込数は増加傾向で、どこまで受け入れられるか不透明だ。各自治体による認可保育所の面積基準の独自解釈について、事実上認めないという厚生労働省の通知は、待機児童解消に向け取り組みを進める自治体に冷や水を浴びせる結果となった。関係者の間でも賛否は分かれている。保育の研究・運動団体である全国保育団体連絡会の実方信子事務局長は「子どもの発達を考えれば当然の話。待機児童の問題があるとは思うが、自治体は子どもにとってどれだけの面積が必要かを考えて対応すべきだ」と、通知の妥当性を指摘。一方、4月に長女(1)の入所を希望している母親(33)=横浜市神奈川区在住=は「広いに越したことはないが、まずは待機児童を解消してほしい。なぜいまさらそんな話になるのか。ただでさえ入りにくいのに輪を掛けて入りにくくなれば職場復帰が遠のく」と困惑する。
 横浜市は昨年9月、国から3年間面積基準を緩和できる特例地域に指定されていた。それだけに、市こども青少年局の鯉渕信也局長は「通知は予期してなかった。むしろ緩和の方向にあると考えていただけに、はしごを外された感じ」と厳しい面持ち。「既存施設に3・3平方メートルの要件を直ちに適用して定員を減らすのは現実的ではない。特例措置の3年間で調整するかなど対応を検討している」と話している。 

本記事では,横浜市における認可保育所の設置に関する検討状況を紹介.
「従うべき基準」*1と位置付けられる「児童福祉施設に係る基準」.本記事を拝読させて頂くと,同市では「1969年から独自解釈で0〜1歳児の必要面積を二つの基準の平均値「2.475平方メートル以上」で運用」されてきたものの,同基準の条例化に伴い,「0〜1歳のほふく(伏せた状態で移動)に関わる面積基準」は,「ほふくしない子ども1人につき1.65平方メートル以上」,「ほふくする子ども1人につき3.3平方メートル以上と定めた最低基準の厳守」が求められることにもなる.いわば,制度改正に伴う運用の抑制という,「分権化のパラドックス*2とも解せなくもない.
勿論,「従うべき基準」は,ほとんど自治体独自の基準をつくる裁量はない」*3とされる.方や,「従うべき基準は,最低基準」*4との理解や,まさに,「立法法務にフィードバックしていく」「評価・争訟法務」*5の一環として,同市の運用が,「従うべき基準の範囲を超えているかどうかの判断は,最終的には裁判所で判断」*6を求めることも考えられなくもない.同市の今後の運用は,要経過観察.

*1:厚生労働省HP(政策について分野別の政策一覧子ども・子育て子ども・子育て支援 社会的養護2011年10月)「資料8 児童福祉施設最低基準の条例委任について

*2:嶋田暁文「地方分権と現場改革−分権改革によるインパクトはなぜ乏しいのか」北村喜宣編著『ポスト分権改革の条例法務』(ぎょうせい,2003年)98頁

ポスト分権改革の条例法務―自治体現場は変わったか

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*3:鈴木庸夫監・著『どう変わる?どうつくる?第2期地方分権改革条例の策定とあだ,審議』(イマジン出版,2012年)22頁

どう変わる?どうつくる?第2期地方分権改革 条例の策定と審議

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*4:小泉祐一郎『地域主権改革一括法の解説』(ぎょうせい,2011年)129頁

地域主権改革一括法の解説

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*5:出石稔「自治体における「評価・争訟法務」の意義と課題」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)27頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

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*6:川崎政司編著『ポイント解説「地域主権改革」関連法 自治体への影響とその対応に向けて』(第一法規,2012年)132頁

ポイント解説「地域主権改革」関連法 自治体への影響とその対応に向けて

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