ユニークな事業を打ち上げ、全国各地の議会から行政視察が絶えない武雄市。宿泊による経済効果も出ているが、市内のビジネスホテルとシティーホテルに集中し、温泉宿に泊まる議会はほとんどない。政務調査費などの公費で泊まるため、「温泉宿は歓楽のイメージがあって報告書に書きにくい」というのが主な理由。くっきりと明暗が分かれ、宿泊施設全体が潤ってほしい市や温泉関係者は困惑している。
 武雄市議会事務局によると、視察は年間10件程度だったが、2006年に樋渡啓祐市長が市長になってから急増。フェイスブック活用やイノシシ対策、レモングラスによる産業振興、病院民営化などを目当てに、10年度は70件、11年度は86件(2月23日現在)と増え続けている。あまりに多くなったため、市議会は昨年10月から市内に宿泊する議会以外の視察は受け入れないことにしたほどだ。
 ただ、宿泊先には偏りが出ている。11年度に宿泊した55団体(377人)のうち、ビジネスホテルが32団体(234人)、シティーホテルが10団体(64人)と全体の76%を占め、温泉宿は宿泊があっても各施設1団体だけだった。ビジネスホテルに泊まった愛知県豊橋市議会議員は「今は市民感情が厳しい。政務調査費の使途は情報公開しており、温泉宿では遊びととられかねない。自分のカネなら旅館に泊まるが…」。同じように鳥取市議会議員も「歓楽のイメージでとられたくない。温泉宿で宴会というのは昔の話」という。1泊朝食付き6千〜7千円が相場で、「市民の目もあり、安く上げたい」と選択の理由を話す。
 一方で、あえて温泉宿を選んだ兵庫県明石市議会議員は「温泉地の実情を知るのも一つの目的。宿の人から観光の取り組みを聞きたかった。政務調査費の使途を市民に説明できるなら、温泉宿に泊まってもいいはずだ」と言う。受け入れる武雄市議会事務局は宿泊施設のあっせんはしておらず、ホームページ上に宿泊リストを載せているだけで、選択は視察先に任せている。「(ビジネスホテルが)駅に近いとか、個室ベッド志向を理由に差がついていると思っていたが、温泉宿のイメージが悪いというのは意外だ」と困惑する。武雄温泉旅館組合の田中隆一郎理事長は「残念な傾向。ステレオタイプのイメージだけで温泉宿を捉えてほしくない。今は旅館でも1人1部屋で泊まれる。宿の従業員とのコミュニケーションの中からまちづくりのヒントを得てほしい」と話す。別の温泉旅館は「価格を下げたり、先進的な観光地になるよう関係者がまちづくりとサービスを磨く努力をしなければ」とイメージを変えられるような営業手法の必要性を訴えた。前田敏美副市長は「市としてはどこに泊まってもらってもありがたい」としながらも、「武雄は歴史の古い温泉地であり、温泉宿にも泊まってほしい。リピーターになってもらうよう温泉地の魅力をアピールする時間を視察の説明に設けることも検討したい」と話す。

本記事では,武雄市における行政視察の現状を紹介.主に,同市に視察に訪れた方々の宿泊場所に関して報道.その「選択の理由」は,いずれも興味深い.
同市では,同市HPのトップページに「行政視察」*1の案内を置き,「行政視察の申し込み方法」,「視察テーマ別ランキング」,「武雄市の行政視察受け入れ状況」が容易に接することが可能(便利ですね).申し込み手続を見てみると,議会議員の申し込みは,同市の「議会事務局」,執行部からの申し込みは同市の「つながる部秘書広報課」*2 が窓口となる.ただ,前者に関しては,「あまりにも視察件数が増え,視察希望が重複するなど,ご希望の視察内容に十分応えきれていない状況」*3にあった模様.そこで,議会議員の場合には,三つの方針が定められている.
一つは,対応者.これは,「市長と担当部で対応」される.具体的には,「原則市長自ら説明」をされ,「あわせて担当部より極め細やかな説明を行」われる,という.二つめは,視察先.これも「ご希望次第で,現場説明も」と極めてホスタビリティーが高い対応.最後は,宿泊先.これは「市内宿泊者に限定」されている.具体的には,同「市内に5人以上で宿泊をされる団体」*4に限定.加えて,同サイトでは,「市内宿泊リスト」*5へとリンクされており,同市内での宿泊先の利用を促している.また,同「市近隣等の」自治体で「どうしても市内に宿泊ができない場合」には,「有料」となり「一人当たり1,000円」*6を負担頂くことになる,という.「現金主義(cash‐basis)」*7による行政視察に対する経済的規制とも整理ができそうと思いつつも,更に,同FBを拝読させて頂くと,その際には,同市からは「豪華お土産付」でもある(なるほど).本記事で紹介されている宿泊先の「市内のビジネスホテルとシティーホテルに集中」化現象は,上記のような制度的な背景もある模様.
宿泊先は勿論,宿泊後に,「表面的に視察し真似」*8することに留まることなく,「施策立案や制度設計といった〈実践知〉の獲得」*9にどのように結び付いたかが把握できると,興味深そう.

*1:武雄市HP武雄市への行政視察のご案内」同市HPは,お馴染みのFB上のサイトですね.実際に訪れるのは初めてです.

*2:武雄市HP(武雄市への行政視察のご案内行政視察の受け入れ状況)「行政視察の申し込み方法

*3:武雄市HP(市政情報武雄市議会)「行政視察の受け入れについて

*4:前傾注3・武雄市(行政視察の受け入れについて)

*5:武雄市HP武雄市_観光情報 泊まる

*6:前傾注3・武雄市(行政視察の受け入れについて)

*7:Michael Howlett.2010.Designing Public Policies: Principles and Instruments, Routledge:102.

Designing Public Policies: Principles and Instruments (Routledge Textbooks in Policy Studies)

Designing Public Policies: Principles and Instruments (Routledge Textbooks in Policy Studies)

*8:伊藤修一郎『政策リサーチ入門』(東京大学出版会,2011年)107頁

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

政策リサーチ入門―仮説検証による問題解決の技法

*9:谷富夫, 芦田徹郎編著『よくわかる質的社会調査 技法編』(ミネルヴァ書房,2009年)193頁

よくわかる質的社会調査 技法編 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる質的社会調査 技法編 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)