昨日,地方分権改革推進委員会が『第2次勧告』をとりまとめ,同日夕刻に,麻生首相へ提出.5月29日付の本備忘録では,『第1次勧告』の各紙の報道状況を取り上げたので,『第2次勧告』についても「特定の事項について,各報道機関がそれをどのように伝え,どのように評価しているのか」*1との観点から,各紙の報道状況をご紹介(五十音順).なお,ご紹介させていただく各紙は,新聞版もあわせて参照しました).勧告内容に対する精密な分析は,砂原庸介先生による研究・観察をご参照ください.

まずは,朝日新聞.新聞版では1面,3面(5面で勧告内容を紹介)で紹介.

政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は8日、国の出先機関の改革などに関する第2次勧告をまとめ、麻生首相に提出した。出先にいる約9万6千人の職員のうち、36%にあたる3万5千人程度を減らすという目標を掲げた。このうち2万3千人余りは自治体に移管するとしている。
 出先が手がけている事務や権限を自治体に移すのにあわせ、それに携わる職員も移管して分権を進めることがねらいだ。同時に、国と自治体が同種の仕事をする「二重行政」を排し、国と地方を通じて公務員を削減することもめざしている。すでに政府が決めている7700人の削減をまず実現。その後、1万人程度を自治体に移す。出先の見直しを含む今回の分権改革では、09年度中に新分権一括法案を国会に提出する方針で、さらに3年程度の準備期間を置いたうえで実現させる。その後も削減を進め、全体では2万3千人余りを自治体に移し、1万2千人弱を「スリム化」することをめざす。 その前提となるのが出先の事務・権限の見直しだ。検討対象とした321の事務・権限のうち自治体へ移管すると仕分けしたのは74、廃止・縮小は47、本省への移管は1。重複するものを除き計116を見直す方針を示した。 ただ、移管や廃止・縮小とされた事務・権限は、丸ごと移したり、なくしたりするのではなく、その一部にとどまるものが多い。また、焦点となっていた国直轄国道や1級河川の都道府県への移管については、国土交通省都道府県との協議を急ぐよう促すにとどめ、どこまで移すかは書き込まなかった。このため、勧告では大規模な職員削減を実現する道筋を示せてはいない。
一方、出先の事務・権限を減らしたあと、国に残る部分の受け皿についても記した。国交省の地方整備局と北海道開発局農林水産省地方農政局の企画機能など、6機関の業務を統合し、県域を超えたブロックごとに「地方振興局」(仮称)を置く。整備局などの直轄公共事業実施部門は切り離して統合し「地方工務局」(同)とする内容だ。都道府県単位で置かれている地方農政事務所や都道府県労働局、運輸支局は廃止とされた。ただ、労働局のもとにあった労働基準監督署などは残り、ブロック単位の機関のもとに置く。ブロック機関も残さず完全に廃止する方針を示したのは定員30人の中央労働委員会地方事務所だけだ。もし、権限の移管などが十分に進まないまま出先の統合が進めば、巨大な組織が生まれるおそれもはらんでいる。勧告では、出先機関見直しの工程表を今年度中に策定することを政府に求めた。その際に、政府がどこまで勧告に沿った内容とするかが焦点となる。(今村尚徳)

朝日新聞では,現行の国の出先機関において勤務している職員(9.6万人)のうち36%にあたる3.6万人を「削減」するとの内容に焦点を当てて報道.あわせて,「出先の事務・権限の見直し」が前提であるとしつつ,同勧告への分析的評価は「丸ごと移したり,なくしたりするのではなく,その一部にとどまるものが多い」とあり,重ねて「大規模な職員削減を実現する道筋を示せてはいない」との主張がなされており,同勧告で示した数値の現実性への疑義を示しているようである.また,新設の「地方振興局」(仮称)と「地方工務局」(仮称)については,「権限の移管などが十分に進まないまま出先の統合が進めば」との反証をおきながらも「巨大な組織が生まれるおそれもはらんでいる」との主張がなされている.同紙の報道における立論形式からすれば,国の出先機関の統廃合に関する方向性と数字は示されたものの,その根拠が不明瞭ではないかとの疑問を呈しているようにも窺える.また,同紙では,「義務付け・枠付け」(いわゆる「義務・枠」)に関しては沈黙していることもまた特徴的か.また,新聞版3面では「「官僚大移動」行方は」の題目の分析記事において,上記数値の掲載をめぐる「突然の委員長提案」に至るまでの過程が記述.今後の同委員会分析においては参考となる事実関係の記録.同記事内では,同紙編集委員により「積算根拠はあやふや」「実現性は見通せない」との評価と,新たな出先機関創設に伴う「結局は各省の縦割り組織にならないか」との懸念や,「監視役」としての自治体間での「意見が割れた場合の調整方法はどうするのか」との課題も提示.全般的に実効性という観点から厳しい評価があるものの,「河川と国道を一部とは移管対象にしていることは評価」ともある.

次いで,産経新聞.新聞版では,1面・2面で紹介(5面は勧告内容).

政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は8日、国の出先機関の統廃合を柱とした第2次勧告を決定し、麻生太郎首相に提出した。国土交通省地方整備局や農水省地方農政局など6機関は権限の一部を地方自治体に移した上で、府省を超えた「地方振興局」と「地方工務局」(いずれも仮称)に再編する。国の統合出先機関として各ブロックに置く両局を道州制の中核組織と想定して「先駆的移行措置」と明記し、首相の意向に沿った道州制実現への道筋を示した。
 2次勧告は見直しの対象とした8府省15系統の出先機関(定員計約9万6000人)のうち、6機関について、企画部門を集約した地方振興局と、直轄公共工事の実施を担う地方工務局に再編し、内閣府が所管する。両局を監視する新組織として地方自治体の首長らが参加した地域振興委員会(仮称)を設ける。法務省法務局など6機関は存続し、廃止は厚生労働省中央労働委員会地方事務所だけだった。勧告通りに地方移管や合理化が実現すれば、将来的に現在の3分の1にあたる約3万4600人が減るとの試算も盛り込んだが、「将来的に」の時期は示さなかった。
 また、国が地方自治体の活動を法令で細かく規定する現在の「義務付け・枠付け」について、検討対象の半数近い4076条項について不要と判断し、関係府省に見直しを求めた。
 分権委は来春まとめる第3次勧告で、権限の地方移管に伴う人員や税財源の手当てに関する具体像を示す方針だ。一方、政府も来年3月までに2次勧告の内容を実現するための工程表を作成。来年度中に地方分権改革推進計画を決定し、必要な法改正をはかる「新・地方分権一括法案」を国会に提出する予定だ

政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)が8日に決定した第2次勧告は、明らかな方針転換だった。国の出先機関の「原則廃止」方針にもかかわらず、純粋な廃止は15機関のうち1つだけ。しかも、地方自治体への移管実現時期も不透明となれば、改革後退の批判は免れない。その代わりに前面に出たのは、各ブロックに配置される新たな国の統合出先機関で、麻生太郎首相の意向に沿った「道州制への布石」だった。首相は批判も予想される中、あえて道州制実現へと大きくカジを切る決断をした。
 2次勧告は分権委の取り組みを「将来の道州制の実現に向けて確かな道筋をつけることになる」と強調した。分権委はこれまで都道府県などを対象に権限を移す改革に焦点をあて、道州制を議論の前提としないことを何度も確認してきた。早ければ平成27年の道州制導入(自民党道州制推進本部や日本経団連の案)が前提となれば、2、3年後にも始まる出先機関から都道府県などへの権限移譲は、短期間しか実行されない「途中経過」になるからだ。
 しかし、方針転換の兆しは、首相が11月6日の丹羽氏との会談で指示した言葉の中にあった。
「私の趣旨に沿った勧告を早急にしてほしい」
「私の趣旨」こそが、首相が就任直後の所信表明演説で語った道州制の実現だった。首相は国会答弁でも「抵抗があるかもしれないが、私が決断する」と表明。明治以来の国のかたちを変える大改革への意欲の表れを分権委は尊重した。首相の指示を受け、分権委は一気に首相寄りに動く。新たな統合出先機関の創設の一方で、「将来的に」との前提で約3万4600人の削減数も提示。しかし、この数字が出たのは8日が初めて。積算根拠は議論されず、生煮え感はぬぐえない。8日の会合でも出た異論は、首相の意向という大義に押し切られた。改革後退の印象を避けつつ、道州制の布石も打つ苦肉の策だった。首相は丹羽氏から勧告を受け取り、「工程表を来年3月までにつくる」と述べ、勧告の実現に意欲を示した。しかし、今後も官僚の抵抗や、都道府県への権限移譲を求める全国知事会などから反発が出てくることは必至だ。各種の世論調査内閣支持率が軒並み20%台に急落し、逆境にある首相の本気度が問われるのはこれからだ。

産経新聞では,第1面では6つの国の出先機関の「統合」に関してやや力点を置く.そして,第2面の記事とあわせて拝読するとより鮮明になるが,「道州制実現への道筋」「道州制への布石」とあるように,今回の出先機関の統廃合案を将来的な道州制との文脈で捉えていることは,余り他紙には見られない同紙の特徴か.そのためか,削減される職員数については,第1面で「将来的に現在の3分の1にあたる約3万4600人が減るとの試算も盛り込んだ」,第2面では「「将来的に」との前提で約3万4600人の削減数も提示」とあるように,試算であることを強調しつつ,第2面で「積算根拠は議論されず,生煮え感はぬぐえない」との分析評価がなされていはいるものの,補足的な紹介ともいえる記述振りに止まっているようにも読める.また,「義務・枠」については,第1面で「検討対象の半数近い4076条項について不要と判断」と報道.「義務・枠」に関しては,同紙と東京新聞が1文程度の紹介に止まっている限定的な報道がなされているが,削減数値・新出先機関の設置提案に比べても報道的な素材としては扱い難いのだろうか.なお,同紙での社説「【主張】地方分権改革 これで勧告と言えるのか」との標題の下で,「目指すべき改革の具体的姿が容易に見えてこない」,「予算節減はどれほどかの具体的数字は盛り込まれなかった」,「6つの機関を,新設の「地方振興局」と「地方工務局」の2つに整理統合する枠組みだけ」とあり,国の出先機関に関する評価としては,朝日新聞とともに厳しい見解が示されている.

第三に,東京新聞.新聞版では1面・3面で紹介.

政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は八日、国の出先機関の統廃合や自治体に対する仕事の「義務付け」の見直しを求める第二次勧告を麻生太郎首相に提出した。八府省十五機関の事務権限のうち約二割を地方に移譲するなど見直し、国土交通省地方整備局など八機関の統合、一機関の廃止を明記した。
 当初方針の「原則廃止」からは大きく後退する内容。事務の地方移譲に伴う人員削減では、約一万人を出先機関から地方に移し、将来的に計三万五千人程度の削減を目指すべきだとした。勧告を受け、政府は来年三月末までに出先機関の統廃合計画を策定する。
 出先機関の勧告は国と地方の二重行政を排除するため、三百二十一事務のうち福祉タクシーの許認可など七十四事務を地方に移譲し、四十七事務を廃止・縮小するよう提言。地方整備局や農林水産省地方農政局など地域経済と関係が深い六機関は、企画部門を中心に「地方振興局」として府省を超えた総合的な出先機関に統合。地元の自治体首長らでつくる「地域振興委員会」を新設し、意見を述べる仕組みもつくる。このほか厚生労働省都道府県労働局は地方厚生局と統合してブロック単位の新組織とし、中央労働委員会地方事務所は廃止する。法務省法務局など六機関は組織をスリム化して存続させる。
 自治体の仕事を国が法令で縛る「義務付け」の見直しでは約四千項目の廃止を明記、国から地方に移管する直轄国道の対象拡大なども求めた。
◆2次勧告の骨子
自治事務のうち、国が自治体の仕事を法令で縛る義務付けなど(約四千項目)を見直し
▽八府省の十五出先機関の事務権限のうち約二割を地方に移管するなど見直し
国土交通省地方整備局など八機関を統合、一機関を廃止
▽府省を超えた総合的な出先機関として「地方振興局」「地方工務局」を新設
法務省法務局など六機関は存続
▽一万人程度を国の出先機関から地方に移し、将来的に計三万五千人程度の削減を目指す
▽政府は来年三月末までに出先機関統廃合の実施計画を策定

東京新聞では,同記事のヘッダーにもあるように,「当初方針の「原則廃止」」を論拠に「大幅後退」との評価.「地方振興局」「地方工務局」に関しては,第1次記事で「府省を超えた」と紹介.確定された『第2勧告』を未だ拝読していないため.同記述の妥当性がよく分からないが,他紙ではこれら2つの出先機関については「内閣府出先機関」との報道からすと,これらの2つの出先機関に係る既存の各省が所掌する事務・権限に関しては,内閣府へと移管されると理解することが適当なのだろうか.その場合,同紙による「省」は越えるかと想定されるが,「府」まで越えるのかと言えば,よく分からない.更に,内閣府への移管となると,内閣府が「大いなる事業官庁化」の性格を擁するようにもなるのかとも思われるが,本来同府に期待されている「知恵の府」という機関としての哲学との適正性からはどうなのだろうか.
同紙では第3面で「解説」として「地方分権抜本改革 掛け声倒れの勧告」との評価.勧告内容で「事務権限の地方移譲が全体の約2割にとどまり」「統廃合後も引き続き多くの職員と予算が国に残る」ことを論拠に「掛け声倒れ」と評している.あわせて,「踏み込んだ勧告を困難にした主因」として「中央省庁の徹底抗戦」と位置づけ,同委員会の「幹部」の発言として「ゼロ回答から押し戻すので精いっぱい」との証言を紹介している.

第四に,日本経済新聞.新聞版では,1面・3面で紹介(5面で勧告要旨).

 政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は8日、出先機関の統廃合と国から地方への権限移譲を柱とした第2次勧告をまとめ、麻生太郎首相に提出した。地方整備局や地方農政局など6機関を、3年後に「地方振興局」と「地方工務局」に統廃合するよう求めた。仕事の地方移譲と合理化で、段階的に合計3万5000人程度の人員削減を目指すことも正式に盛り込んだ。
 農政局の食品不正表示の立ち入り検査権限など出先機関の74の仕事を都道府県に移すよう勧告した。ただ、出先機関の人員削減の時期や予算縮小は明示せず抜本的な統廃合を掲げた当初方針からは後退した。勧告を受け取った首相は改革に向けた工程表を「来年3月までに作りたい」と述べた。勧告では、国土交通省の地方整備局、北海道開発局地方運輸局農林水産省地方農政局経済産業省経済産業局環境省地方環境事務所を省庁の枠を超えた「地方振興局」に統合するよう提言。整備局、開発局、農政局のうち、道路や河川、港湾など公共事業の現場を受け持つ部分は「地方工務局」に切り離すよう求めた。

日本経済新聞は,出先機関の統廃合と都道府県への事務・権限移譲について報道.他紙では,来年3月までの「工程表」策定に関して,同委員会からの要請事項・確定事項のように報道されているなか,上記の通り,「勧告を受け取った首相は改革に向けた工程表を「来年3月までに作りたい」と述べた」との首相見解として紹介している点はやや特徴的か.第3面では「分権迷走,抵抗する官」とのヘッダーのもとで,同勧告策定までの各省との対応,そして,事務局内の様子を分析報道.今回,他紙では報道されてない同委員会事務局の様相を記述していることは,同紙の独自性か.例えば,「分権委を支えるはずの事務局も機能不全に陥った」として,関係者の発言として「内部調整に一番手間取った」との証言を紹介している.この発言を受けて,同紙では「他省庁が嫌がるような大胆な改革案を考える職員は少なく,各省に不利な情報はこっそりと親元の省庁に漏れていたようだ」との推論的記述の分析がなされている.また,同面には,「内閣官房内閣府が各省と協議して,年度内に改革の工程表を作る」と工程表の策定主体と予定が記載.ただ,「この過程でさらに改革が骨抜きになる懸念もぬぐえない」との危惧が示されている.同紙の社説では「出先機関の統合で終えるな」と題目の下,新しい出先機関に関しては,「沖縄総合事務局」を論拠に,「人事権は省庁ごとの縦割りのままで,看板が1つになったにすぎない.新たな総合機関も同様な組織になる公算が大きい」との主張が示されており,疑問提示型の姿勢が示されているようでもある.

第五に,毎日新聞.新聞版では,1面・3面で紹介(5面では勧告要旨).

政府の地方分権改革推進委員会丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)は8日、国の出先機関の見直しについてまとめた第2次勧告を麻生太郎首相に提出した。見直しの対象とした8府省15機関の総定員9万5836人(08年3月末現在)のうち、地方自治体への移管や組織のスリム化などで3分の1にあたる3万4600人の定員を削減するよう要請。また、国土交通省地方整備局や農林水産省地方農政局など9機関を、3年後をめどに統廃合するよう求めた。
 職員数削減の数値目標は、これまで委員の私案にとどまっていたが、8日になって勧告に盛り込まれ、分権委の姿勢を示した。勧告は、対象とした出先機関の事務権限408事項のうち総務部門などを除く321事項を検討した結果、116事項について廃止や地方への移管など見直しを求めた。しかし見直し事項は全体の4割未満にとどまり、残りは引き続き国の事務権限となるため、出先機関の機能はほぼ温存される結果となった。
 組織の見直しでは、焦点となった整備局や農政局のほか、国交省北海道開発局など6機関を廃止し、企画部門の「地方振興局」と公共事業を実施する「地方工務局」に業務を分けて統合する。両局は内閣府出先機関とし、業務の監視や地元の意見を反映させるため、管轄内の都道府県知事や政令市長などによる「地域振興委員会」を設置する。また、厚生労働省地方厚生局と都道府県労働局も廃止し、ブロックごとに統合。厚労省中央労働委員会地方事務所や、汚染米で問題が指摘された農水省地方農政事務所も廃止する。総務省総合通信局国交省地方航空局など6機関は定員を減らし、存続させる。
 政府は昨年6月の「骨太の方針07」で、出先機関の抜本的見直しを分権委に要請。麻生太郎首相も先月、抜本的な統廃合を丹羽委員長に指示していた。政府は今後、勧告を実現するための工程表を今年度内に策定し、出先機関の人員を地方に移すための調整本部の設置などを検討する方針。権限を奪われる各府省の抵抗は強く、難航するのは必至だ。分権委は来春の第3次勧告に向けて、国から地方への税財源の移譲について検討を進める。【石川貴教】
■第2次勧告が示した国の出先機関見直しの概要■
・事務権限116事項を地方自治体に移譲などの見直し
地方自治体への移管などで職員3万4600人削減
・地方整備局や地方農政局などを統合した新しい出先機関を3年後をめどに設置
・新しい出先機関は「地方振興局」と「地方工務局」に分け、内閣府に設置
・振興局と工務局を地元自治体が監視する「地域振興委員会」新設
総合通信局や地方航空局などは存続

◇知事会長「十分でない」
 麻生渡・福岡県知事(全国知事会長)は8日夜、福岡県庁で記者会見し、政府の地方分権改革推進委員会の第2次勧告について「分権改革の推進や二重行政の解消の観点からは十分ではない」との認識を示した。会見で知事は、国が法令で自治体を細かく制約する「義務付け・枠付け」の見直しが盛り込まれた点について「高く評価したい」とした上で、第3次勧告では廃止を基本に見直すよう求めた。一方、国の出先機関の見直しに関しては、都道府県への移譲が明示されないままブロック単位での統合が盛り込まれた点に触れ「単純に統合すると、巨大な出先機関ができる」と指摘。「権限を最大限に都道府県に移譲した後で統合すべきだ」と主張した。分権改革には首相の強い指導力が不可欠だが、麻生内閣の支持率は急落。会見でこの点を指摘された麻生知事は「世論調査(の低支持率)はあるかもしれないが、総理たるもの、一生懸命頑張ってもらわなければならない」と力説した。

政府の地方分権改革推進委員会丹羽宇一郎委員長)の第2次勧告は、国の出先機関の職員3万4600人削減を数値目標として盛り込んだが、職員の6割以上は出先機関に残る結果となった。5月の第1次勧告で国から地方自治体への十分な権限移譲に踏み込めなかったことが響き、職員の地方移管が全体の4分の1程度にとどまるためだ。それでも各府省の強い抵抗は必至で、受け入れ側の地方にも出先機関の統廃合に慎重姿勢がみられ、目標実現は難航が予想される。【石川貴教】
 ◇位置づけ不明確、「地方2局」に3万1000人
「不十分な面があるかもしれないが、実現性や実行可能性を重視した」。第2次勧告について会見で、丹羽委員長はこう述べた。
出先機関の統合・再編により誕生するのが「地方振興局」と「地方工務局」だ。国土交通省地方整備局▽同省地方運輸局▽同省北海道開発局農林水産省地方農政局経済産業省経済産業局環境省地方環境事務所−−の6機関が母体で、職員数3万1000人。
 6機関の定員総数は08年3月で4万9273人。約6割の職員が残る計算。予算規模は定かでないが、6機関は約8兆4000億円の予算を扱っており、新たな「スーパー出先機関」の誕生になりかねないと危惧(きぐ)される。
 こうした組織を創設せざるを得ない背景には、地方自治体への権限移譲が進んでいない問題がある。出先機関の事務権限で、地方に移譲するとして見直し対象としたのは2次勧告でも4割弱。あとは国の事務権限として最初から残されたままとあっては、多くは望むべくもなかった。典型的なのが、国交省地方整備局が所管する国道や1級河川の整備・管理権限。分権委が5月の第1次勧告で盛り込めたのは、国道の「15%以上」と1級河川109水系中65水系で、同省と都道府県の個別調整を経た実際の決定ベースになると、地方移管は全体の1割ほどにとどまる。権限が移管されなければ、職員の地方移管も進まない。2次勧告で地方移管は国道3700人、1級河川3000人など2万3100人で、総定員の24%に過ぎず、地方振興局などが巨大になるのは当然の帰結だった。地方振興局と地方工務局は、位置付けもあいまいだ。所管するのは内閣府だが、事務権限は国交省地方整備局が所管する国道、1級河川の整備・管理権限や、地方農政局土地改良事業などのうち、地方に移管されないものを引き継ぐ。沖縄振興予算を計上する際、内閣府は国道や港湾の事業費なども含め一括計上した後、各省庁に予算を付け替える方式を採っているが、地方振興局などがどうするかまで2次勧告は踏み込めず、国交省などとの関係に大きな詰めを残した。
 ◇またブレた首相/地方も「抵抗勢力」に
 「きちんと仕上げていかなければいけない」
 麻生太郎首相は8日夜、出先機関見直しに向け、年度内に具体的な工程表を作る決意を強調したが、首相の姿勢は一貫したものではなかった。各府省の抵抗で停滞気味だった出先機関見直しの流れを変えたかに見えたのが、11月6日の「国交省地方整備局と農水省地方農政局を原則廃止する」という首相の丹羽委員長への指示だった。丹羽委員長は「首相の指示どおり、大胆な見直しを進めたい」と安堵(あんど)の表情を浮かべ、内閣府幹部も「これで筋道が付けられる」と歓迎した。ところが翌7日、首相は発言を撤回。「国の出先機関の改革を加速するよう指示した」とトーンダウン。各府省も息を吹き返した。それでもなお、関係府省の不満は強い。「何の調整もなく、我々が意見を言う場がなかった。閣僚折衝もなかった」(国交省幹部)「統合で本当に合理化になるのか」(農水省幹部)−−と抵抗を強める構えだ。
 受け入れ先の地方自治体にも抵抗の動きがある。北海道庁との「二重行政」が指摘される国交省北海道開発局は、官製談合発覚を受け、政府は早急な廃止の検討に入っていたが、高橋はるみ北海道知事は「権限と財源のセットになるのが不可欠」と廃止による道庁への権限移譲に慎重な姿勢を示した。道選出の国会議員や地元経済界、自治体がスクラムを組み存続を訴えた。
 その結果、2次勧告では開発局を他の出先機関と統合。大部分の権限は新たに誕生する出先機関に温存される見通しとなった。分権委が2次勧告の土壇場で数値目標を入れ込んだのは一定の成果と言えるが、後退の恐れは否定できない。今後は具体的な工程表策定のなかで、首相の姿勢が改めて問われることになる。

毎日新聞では,新聞版第1面では「職員削減数の数値目標は,これまで委員の私案にとどまっていたが,8日になって勧告に盛り込まれ,分権委の姿勢を示した」とあるように,国の出先機関の職員削減に力点をおきつつ報道.新聞版第3面の「クローズアップ2008」の欄にある分析記事では「権限譲らず 減量不十分」として,「分権委が2次勧告の土壇場で数値目標を入れ込んだのは一定の成果」との数値化への評価がある.ただ,「国道や一級河川の整備・管理権限」が河川について言えば「地方移管は全体の1割ほどにとどまる」こと,「職員の地方移管」が「総定員の24%」であること,そして,「大部分の権限は新たに誕生する出先機関に温存される見通し」であることなどを論拠に,「後退の恐れは否定できない」との主張も示されている.同紙の社説では「国の出先見直し 看板の掛け替えで終わらすな」の題目で,「苦渋の半歩前進」との評価を示しており,一定の評価を示していることは同紙の特徴ともいえる.ただ,この評価も反証がつけられており,上記の通り,「勧告が完全に実施されても約3万人は国の出先機関に残る」こと,「国道,1級河川管理などの業務の地方への移管が難航」したことを論拠に,全面的な積極的な評価にまでは示せない主張が示される.また,「地方振興局」を評して,「ホチキスで各省の出先をつないだような組織」との言及もあり,「地方に組織や権限を移してから都道府県を再編するのが筋」と,筋論としての都道府県合併(又は道州制論)の必要性も示唆している.

最後に,読売新聞.新聞版では,1面・15面で紹介(17面では勧告の要旨).

政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は8日、国の出先機関の統廃合を柱とする第2次勧告を決定し、麻生首相に提出した。
 「地方振興局」と「地方工務局」を新たに創設し、国土交通省地方整備局など9機関を廃止する。統廃合により、地方自治体への移譲も含めて出先機関の職員約3万5000人の削減を目指すとした。分権委が見直し対象としたのは、8府省15系統の出先機関だ。政府は勧告を受け、来年3月末までに政府の統廃合計画を策定する。勧告は3年程度の移行期間を設け、統廃合を実現するよう求めた。東北や近畿などのブロックごとに置かれている地方整備局は計8局あり、国交省北海道開発局とあわせると、地方振興局や工務局は9局程度設けられる可能性が高いが、数について言及しなかった。地方工務局には、地方整備局、北海道開発局農林水産省地方農政局の公共事業執行部門を統合する。地方振興局に統合するのは整備局、農政局、北海道開発局のそれぞれの公共事業執行部門以外の部局と、経済産業省経済産業局国交省地方運輸局環境省地方環境事務所出先機関への監視機能を確保するための仕組みとして、知事、政令市長らをメンバーとして、公共事業の計画などへ意見を述べる振興局、工務局と地元自治体との協議機関「地域振興委員会」(仮称)の設置も要求した。勧告の原案では、統廃合による国家公務員の削減目標3万5000人が盛り込まれていなかったため、委員から不満が出て8日の会合で、丹羽委員長が「(地方移譲などの)ボリューム感が出ていない」などとして、委員長提案で勧告に明記することを決めた。

読売新聞では,「地方振興局」「地方工務局」の創設についてやや力点を置いた報道.同紙の社説では,「国の出先機関 職員大幅削減を画餅にするな」との題目で,「大胆な職員削減の目標を画餅に終わらせてはなるまい」「政府は.国の出先機関の見直しに従来以上に真剣に取り組むことが求められる」と,他紙では同委員会の勧告内容への消極的評価からの立論が示される傾向になる中で,同勧告の実現を政府側に強く求める論調で一貫していることは同紙の特徴.また,他紙に先んじて「知事アンケート」を実施し,同勧告に対する知事達の直近の指向性を把握していることは,これまた他紙にはない,独自の姿勢・取り組みといえる.その結果は,新聞版第15面で分析報道されており,「「国の出先機関の統廃合案」については否定的な評価が過半数を占めた」ことを紹介(ちなみに,「大いに評価」は2都県(東京・大分),「多少は評価」は13道府県(北海道・宮城・石川・山梨・長野・岐阜・静岡・三重・京都・奈良・島根・徳島・佐賀),「あまり評価しない」は22県(秋田・山形・福島・栃木・群馬・千葉・神奈川・滋賀・鳥取・広島・愛媛・高知・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄・埼玉・和歌山・富山・岡山・福岡・愛知),「全く評価しない」が3府県(茨城・大阪・兵庫).「回答留保」が3県(青森・岩手・香川),「未回収」が4県(新潟・福井・山口・長崎).一方で,上記各紙では余り報道がなされなかった「義務・枠」については,回答があった41知事が「肯定的に受け止め,否定的な評価はゼロだった」ともあり,「勧告とその報道」,「勧告と知事評価」,「報道と知事評価」の間では若干異なる指向性がある様相を窺うことができる.

各紙ともに,「分かりやすさ」に重点をおいているためか「削減数値」への記述は,その濃淡はあるものの必ず言及される.一方で「義務・枠」については沈黙が多いことは特徴的ともいえる.『第二次勧告』については,同委員会HPには現在まで掲載されておらず*2,その最終的な確定内容が,現在では未だ把握できずにいる.個人的には,上記の報道においても言及した,内閣府の「大いなる事業官庁化」の趣旨が良く分からなかったりもする.透明性が特徴の同委員会.政治動向と制度設計の2つ要素からコロイド的になりつつあるのかなあ,とも思いつつも,HPに掲載され次第拝読させていただき,同勧告の真意を要確認.

*1:森田朗『制度設計の行政学』(慈学社,2007年)550頁

制度設計の行政学

制度設計の行政学

*2:地方分権改革推進委員会HP「委員会の勧告・意見等