富山県は6日、地球温暖化対策として、知事部局の県職員のうち約1900人に対し、マイカー通勤の自粛を要請すると発表した。
 10月1日から実施予定で、県によると、年間を通しての自粛要請は全国初という。同県は1世帯当たりの車保有台数が全国2位で、県職員も3分の2が車通勤している。県によると、出先機関も含めた知事部局の職員は約4500人で、車通勤しているのは約3000人。このうち、職場が鉄道の駅から2キロ圏内にある約1900人を対象に、自転車や路面電車などの公共交通機関の利用、駅にマイカーを止めて列車に乗り換える「パークアンドライド」を呼びかける。子どもや介護が必要な家族の送迎を兼ねる場合などは対象外という。マイカー通勤している富山市内の男性職員(34)は、「車はガソリン代もかさむし、自転車通勤に切り替える、いいきっかけ」と歓迎する一方で、山間部に住む男性職員(46)は「自宅は最寄り駅まで約4キロで公共交通機関は無い。これからは終電の時間を気にしなくては」と困り顔だった。県は10月以降、自粛要請の効果をチェックしたいとしている。

同記事では,富山県において,県庁職員の通勤時の自動車利用の自粛要請を本年10月より行うことを紹介.既に,月2日のノーマイカーデーとしてきた取り組み*1を,対象を「職場が鉄道の駅から2キロ圏内」にある職員と要件を重点化し,「毎日」の自動車利用を自粛することを求める模様.当初,北日本新聞での報道では「管理職限定」と紹介されており*2,アナウンスメント効果を期待した取り組みなのかなあとは思ってはいたものの,同記事を見る限りでは,職種に基づく要件から地域に基づく要件へと改められたようであり,当初よりも職員行動の実質的な変化を期待した現実的な要件変更があったのなあとも窺われる.同要件からも分かるように,公共交通を優先しつつ,「パークアンドライド*3をの混合対応を推奨されている模様.同記事にもあるように,自動車保有台数全国2位の自動車利用大県・富山の一つの実験.「エコライフ・アクト10」の着実な実施や県内全域でのレジ袋無料配布取りやめ等に取り組む同県の動向*4は,興味深い.要観察.
やや語義矛盾的ではあるが,では,同県職員が「自粛」行動をとるためにはどのような「選択の設計思想」(choice architecture)*5を用いればよいのだろうか.制度設計論上は種々考えられる興味深いテーマ.例えば,産業界で環境負荷削減のために広がる,実際に機能した「自発的な取り組み」が成立した要件を分析した結果からは,①目標の設置及び達成度の評価方法の監視,②同種業界の他企業が取り組み企業に「ただ乗り」をしないことを担保するための業界内での協定締結,③広範な既存の政策体系や制度との整合性と相互補完性の3点が抽出されている*6
同「自粛」行動を,これらの要件とのアナロジーを行えば,第一点目の目標設定とその執行状況の評価・監視については,同記事にもあるような10月以降の定期的な「自粛要請の効果チェック」の整備は不可避であろうし,第二目の協定については,職員間での通勤時に利用に関する規則の改定等が考えられる.そして,第3点目の他制度の整合性・相互補完性となれば,恐らく,第二点目とも密接に関連するかと思われるが,「常識を超えた名目で」「官民給与格差の大きな原因となっている」*7とも揶揄されることもある「手当」の仕組みを改めることもひとつの方法か(結局は金銭的に誘導する設計が目に見えやすいか).例えば,新たに「エコ交通手当」(勝手に名称)を新設することもあるだろうし,又は,より現実的には従来の「通勤手当」を,従来の自動車利用時の支給要件*8を,上記のような混合利用を誘因するよう支給額を変更すること(費用弁償分+機会費用の一部補填.ただし有期等か)もその一つか(もちろん,県民,議会からは合意が得られるかは不確定だが).
ただ,いずれにせよ自動車利用からの公共交通等への代替は,まずは,公共交通の整備が不可避ともいえるが,同県では大丈夫なのだろうかと,お盆なのに帰省もしない同県出身者の一人としては,遠きにありてこれを思う.これまた,今後の動向を要経過観察.

*1:富山県HP「ノーマイカー県民運動

*2:北日本新聞(2008年7月3日付)「マイカー通勤自粛 県管理職、10月から

*3:富山県HP「パークアンドライドの利用

*4:石井隆一「地域からの地球温暖化対策」『都市問題』Vol.99,No.8,2008年8月号,33〜38頁

*5:Rihard H. Thaler,Cass R.Sunstein,Nudge,Yale University Press,2008,pp.99−100

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness

*6:諸富徹・浅野耕太・森晶寿『環境経済学講義』(有斐閣,2008年)99〜101頁

環境経済学講義―持続可能な発展をめざして (有斐閣ブックス)

環境経済学講義―持続可能な発展をめざして (有斐閣ブックス)

*7:若林亜紀いしいひさいち『独身手当』(東洋経済新報社,2007年)16頁(同書は広範に手当の事例を紹介しつつ,やや拡散的ではあるものの,視線厳しくも辛辣に核心をつきつつ,一方でアイロニー満載の書.個人的には,いしいひさいち先生の「管理職ではない手当がでない手当」(89頁)がつぼ)

*8:富山県HP「富山県一般職の職員等の給与に関する条例・第10条の6第2項