東京、鹿児島など5都道府県の公用車、高知など3道県警の警察車両が任意保険に加入せずに運用されていることが読売新聞の調べで分かった。
 こうした都道府県は「事故ごとに賠償に応じた方が安上がり」と説明するが、職員が事故の示談交渉に費やす時間や労力の負担は大きく、被害者救済にも時間を要する。「目に見えぬコストがかかっており、保険に加入する方がメリットは大きい」と指摘する声があがっている。公用車が任意保険に加入していないのは、北海道、東京都、京都府愛媛県、鹿児島県の5都道府県で、長野県は除雪車などの特殊車両のみ加入。北海道、高知県、鹿児島県の3警察本部は、パトカーなど警察公用車が未加入だった。いずれも義務付けられている自動車損害賠償責任保険自賠責)だけに加入し、高額な補償が必要な人身、物損事故の際は、職員が直接、示談交渉にあたり、公費で賠償している。約3300台の公用車を持つ北海道は「事故のほとんどが軽微な物損事故で、示談した方が安くつく。毎年1億5000万円以上の経費節減につながっている」と説明。他の自治体も費用対効果を挙げている。
 しかし、過失割合や賠償金額などを交渉する事故を起こした職員らに対し、被害者から「市民に任意保険加入を勧める行政、県警が未加入とは何ごとか」などと批判があり、示談が難航するケースも多い。賠償に予算措置が必要なため、保険会社の対応と比較して時間がかかる傾向がある。鹿児島県では12月8日、鹿児島市内で家出人を捜索していたパトカーが住宅の倉庫や塀に衝突したが、修理費などの賠償額約70万円は予算措置されておらず、被害者に支払われていない。大破したパトカーも同様に廃車か修理か決まらず、県警は残りのパトカーでやりくりしている。県警幹部は「保険に入っていれば、迅速に対応でき、職員の負担も軽減できる」と話す。
 こうした理由から、ここ5年間に、福岡県や大阪府など13府県が保険に加入。警察では、警視庁と長野県警が2007年から、段階的に加入を始めている。毎年約200万円の賠償金を払っていた大分県は、示談交渉などに伴う負担が職員2・5人が1年間かかりっきりになる労働量と判明し、06年に加入した。同県管財課は「約820台分の保険料は約1270万円だが、人件費や労力を考えるとプラス」と話す。高額賠償の事故発生を受けて、05年から加入している大阪府の庁舎管理課は「保険があると安心感がある。対応が早くなり、被害者の方へのメリットも大きい」と話している。
 関西学院大の橋本信之教授(行政学)は「財政が悪化する中、加入しない選択も理解できる。しかし、パトカーなど、危険な業務にかかわる公用車もあり、目に見えないコストを考えれば、保険に加入した方が市民に有益な場合もあるのでは」と話している。

同記事では,公用車への任意保険を加入していない都道府県が5都道府県,警察車両に関しては3道県警であることを紹介.対象となる公用車数次第では,機会費用を想定しつつ,公費による保険加入負担額を図るか否かは,考えてみると難しい課題.
一般的には,保険料格差を設けることで,保険契約者はリスクを低減するインセンティブがある*1とは考えられてはいるものの,では実際に,保険料負担額が異なる自治体間における公用車の利用の結果,リスク低減行動が鈍ることになるのかは実際に比較観察しなければならない事象.とはいえ,示談のため専任職員の設置に要するコスト(同種の職員を設置されているのですか,驚き),当該職員による交渉費用,そして,具体的な補償という金銭的費用を鑑みると,一概には全ての公用車を任意保険への非加入とすることが,「費用対効果」により効果が高い結果となるのだろうか.また,当該専任職員が「リスク中立者(risk neutral)」*2として交渉されることになるのかは,これまた判然としない.同種の分析はあるのだろうか.要確認.
恐らく,任意保険加入とする公用車の「すべてか無かという問題というよりも,むしろ多いか少ないかの程度の問題」*3とする対処が現実的かとも考えられなくもない.公費負担とリスクのあり方に関して制度設計的に考えさせられる.

*1:身崎成紀「損害保険制度の安全確保への役割」『ジュリスト』No.1307,2006.6.1,100頁

*2:マーク・ラムザイヤー『法と経済学』(弘文堂,1990年)37頁

法と経済学―日本法の経済分析

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*3:クリストファー・フッド『行政活動の理論』(岩波書店,2000年)106頁

行政活動の理論 (岩波テキストブックス)

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