経済産業省は十七日、地域活性化少子高齢化といった社会的課題の解決を事業として行う「ソーシャルビジネス」の先進的取り組みとして、沖縄の「やんばる自然塾」「島の風」など計五十五の事業を選んだ。
 三月末に事例集を発行、自治体や学校などに無料配布する。先進事例を公表することで認知度を高め、市場の拡大を目指す。ソーシャルビジネスは、子育て支援やまちづくりなど地域住民のニーズに根差した事業。このため長期安定的な雇用の創出が見込めるのが特徴だ。経産省の試算によると、二〇〇七年度の国内市場規模は約二千四百億円だが、一〇年度にはソーシャルビジネス市場の規模が数倍に拡大する可能性もあるという。
 卵かけご飯専用しょうゆの開発で知られる「吉田ふるさと村」(島根県雲南市)は、地元の食材を使った無添加食品の加工で、過疎からの脱却を図る取り組みを行ったことが評価された。このほか、洋菓子製造で障害者の自立支援をする特定非営利活動法人NPO法人)「パンドラの会」(愛知県刈谷市)も選ばれた。

同記事では,沖縄県内にある,有限会社やんばる自然塾と沖縄県特定非営利活動法人島の風が「ソーシャルビジネス55」に選定されたことを紹介.「ソーシャルビジネス55」に関しては,経済産業省HPを参照*1
2008年3月に取りまとめられた『ソーシャルビジネス研究会報告書』によると,「社会性:現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること」,「事業性:社会性のミッションをビジネスの形に表し,継続的に事業活動を進めていくこと」,「革新性:新しい社会的商品・サービスや,それを提供するための仕組みを開発したり,活用したりすること.また,その活動が社会に広がることを通して,新しい社会的価値を創出すること」の「3つの要件を満たす主体」をソーシャルビジネスとして捉えている.このようなソーシャルビジネスを通じて,「住民福祉の向上,雇用創出,経済活性化,公的支出の縮減等,顕在化した社会的課題を解決することが期待」(9頁)されており,同種の事業である,コミュニティビジネスとの相違点としては,コミュニティビジネスが「活動領域や解決すべき社会的課題について一定の地理的範囲が存在」する一方でソーシャルビジネスでは「こうした制約が存在しない」*2点にあるという.
今回の公募に基づき選定された事業は,「街づくり・観光・農業体験等の分野で地域活性化のための人づくり・仕組みづくりに取り組むもの」,「子育て支援・高齢者対策等の地域住民の抱える課題に取り組むもの」,「環境・健康・就労等の分野で社会の仕組みづくりに貢献するもの」,「企業家育成,創業・経営の支援に取り組むもの」の4分野に分かれ,順に25事業,18事業,7事業,5事業とある.同記事の2つの事例は「観光」の分野に該当.上記報告書内においても「現在のSB 事業者の最大の課題の一つは,事業活動に必要な資金の調達」(25頁)とあるように,同種の事業者は「資源依存」と「自立」*3との間にあるなかで,同選定を通じて「資金供給側が容易に事業活動を評価し,投融資の判断が円滑に行えるよう」な「一層の具体的かつ明確な情報公開」(同頁)の効果も期待はできそう.
ただ.同選定内で,「地域別」(8頁)として,9つの地域割毎(沖縄を除き,恐らくは,同省の出先機関である「経済産業局」毎)での集計数も提示されている.上記の同事業主体に対する定義からすると,この区割をも越えることも想定され,今ひとつ同区域毎での集計の意味合いが分からない部分も残るが(都道府県毎の集計は,その主体の大半を占めるNPOの認証の関係上,分からないでもないが),同区割毎の数値にはどのような効果があるのだろうか,と考えさせられる(よもや,「ヤードスティック競争」*4が期待されているとは思えないが).

*1:経済産業省HP(報道発表:平成21年2月17日)「地域で社会的課題を解決し,安定的・継続的な雇用も創出 日本を代表する「ソーシャルビジネス」55選」『ソーシャルビジネス55

*2:経済産業省HP(過去の報道発表:平成20年4月3日)『ソーシャルビジネス研究会報告書』(平成20年4月)3-4頁

*3:田尾雅夫『セルフヘルプ社会』(有斐閣,2007年)283頁

セルフヘルプ社会―超高齢社会のガバナンス対応

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*4:畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』(有斐閣,2008年)173頁

財政学をつかむ (テキストブックス「つかむ」)

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