総務省は地方議会のあり方を見直すなど地方自治法を抜本改正する。都道府県や市町村の首長が議員を在職のまま副知事や副市長、各部局のトップに起用できるようにする。地方議会の多くは無所属の首長を与野党相乗りで支える総与党化で本来のチェック機能が働かず、存在感が薄れている。議員を政策決定や執行に参加させることなどで議会を活性化し、民主党が掲げる「地域主権」の実現に向けた基盤を整備する。今月下旬に発足する「地方行財政検討会議」で議論し、2011年の通常国会に関連法案を提出したい考えだ。
 現行の地方自治制度は首長と議員がそれぞれ住民の直接選挙で選ばれる「二元代表制」。首長と議会はほぼ同等の権限を持つが、議会は審議の形骸化で多様な民意の反映や執行機関の監視などの役割を十分果たせていないのが実情だ。

本記事では,総務省における地方自治法改正に関する方針を紹介.2009年12月26日付の本備忘録でも触れた,地方自治法の改正に向けた検討.本記事の内容には,やや驚き.
同法改正において,本記事にて紹介されているように,いわゆる「自治統治機構」における「議会主導型ガバナンス改革」*1が含まれる場合,「二元代表制を純化する方向」と「二元代表制から離脱し,議会中心の一元代表制への転換を図る方向」*2の「二つの」対極的な路線が設計されうる.本記事にて紹介された改正案の内容は,後者の路線を踏まえた案とも整理ができそう.ただ,原則的には,同路線が採択される際には,「少なくとも直接公選首長の権限を大幅に削減し,名誉職化する可能性を探ることがガバナンス改革の課題」*3とも分析されているように,いわば,現行の首長制の「希釈化」*4は不可避ともいえる.
方や,本記事では,「首長が議員を在職のまま副知事や副市長,各部局のトップに起用できるようにする」と紹介されており,現行の首長制が有する権能を持続することを想定されているようでもあるものの,詳細は判然とはしない.「各部局のトップ」の任命に際しては,現行と同様に「長に属」*5する場合,現行の地方自治法上は「長がこれらの職員を任免するにあたつては,地方公務員法に定めるところによるほかは,別に議会の同意等を必要としないことはいうまでもない」*6と解されていることからすれば,議会議員からの同職への任用においても,議会同意は要しないことも想定される.ただ,今後の同法改正審議にて,「自由度の拡大路線」*7が持続されるかは判然とはしないものの,仮に同路線が「希釈化」され,「二元代表制から離脱し,議会中心の一元代表制への転換を図る方向」の濃度が高められる場合には,例えば,副首長への「議会同意」制は残置され,加えて,「各部局のトップ」に対しても「議会同意」制が新設される可能性も想定されなくもない.
本記事の内容,確かに,制度的には「地方自治体において,地方議員は知事に比べて権限が制限されており」,そのため「知事が自らの望む事業を行うには,知事と友好関係を築き,知事を通じて事業の予算化を行わなければならない」*8ことからも,本記事で示されているように「地方議会の多くは無所属の首長を与野党相乗りで支える総与党化」という「統一政府」*9を前提とした制度案であることでは,任用における安定化が想定できそうではある.方や,「相乗り選挙の消長」*10による「分割政府」*11の下での,議会と首長の関係性次第では,議会側が「党派的拒否権プレイヤー」*12となる蓋然性を内包した制度案ともいえ,その作動には制約も想定される.
同制度の残置・新設を問わずとも,「二元代表制を純化する方向」と「二元代表制から離脱し,議会中心の一元代表制への転換を図る方向」の何れかの路線への改正案が収斂されるのではなく,いずれの路線を「〈個々の仕組み〉」として自治体が選択可能な「〈仕組みとしての地方自治〉の自由化」*13として制度化が図られると,興味深そうではあるものの,憲法下における「自治統治機構」の多様化の可能性を含めた同法改正審議に関しては,要経過観察.

*1:伊藤正次「自治体・地域におけるガバナンス改革の構想と設計」『年報自治体学17 コミュニティ・ガバナンス』(第一法規,2004年),32頁

*2:前掲注1・伊藤正次2004年:33頁]

*3:前掲注1・伊藤正次2004年:33頁]

*4:金井利之『自治制度』(東京大学出版会、2007年)178頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

*5:松本英昭『新版 逐条地方自治法第5次改訂版』(学陽書房,2009年)549頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*6:前掲注5・松本英昭2009年:549頁

*7:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

*8:砂原庸介「もうひとつの政界再編 政党における中央地方関係の変化とその帰結」御厨貴編『変貌する日本政治』(勁草書房,2009年)110頁

*9:待鳥聡史『〈代表〉と〈統治〉のアメリカ政治』(講談社,2009年)30頁

<代表>と<統治>のアメリカ政治 (講談社選書メチエ)

<代表>と<統治>のアメリカ政治 (講談社選書メチエ)

*10:河村和徳『現代日本の地方選挙と住民意識』(慶應義塾大学出版会,2008年)217頁

*11:前掲注9・待鳥聡史2009年:30頁

*12:ジョージ・ツェベリス『拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか』(早稲田大学出版会,2009年)25頁

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

*13:金井利之「地方自治のミ・ラ・イ第22回 〈地方自治の仕組み〉のなかの自治基本条例」『ガバナンス』No.105,2010年1月,91頁

ガバナンス 2010年 01月号 [雑誌]

ガバナンス 2010年 01月号 [雑誌]