神戸市が編さんを進める「新修神戸市史」の「歴史編2古代・中世」が刊行された。古墳時代から戦国時代までを扱っているが、源平や湊川の合戦など、市民の関心が高い出来事は手厚くカバー。また、阪神・淡路大震災を踏まえ、地域の災害史も収録した。自治体の通史には珍しい試みで、幾多の戦乱や災害を乗り越えてきた神戸の姿が浮かび上がる。
 同市史は歴史、行政、産業経済、生活文化の4編全16巻の計画で、1982年度に編さんを開始。歴史編の「古代・中世」は84年度に着手したが震災で中断。2005年度に神戸大、大阪市立大などの研究者でつくる新体制で再開した。今回の発刊で市史は10巻がそろい、歴史編は全4券が完結した。特徴は、史書や軍記に加え、貴族の日記や古文書を積極的に活用し、考古学の成果も盛り込んだ点だ。例えば平清盛ゆかりの福原京(現中央区兵庫区)に関する項目には、関連遺跡の発掘に伴う知見を反映したほか、文献から清盛邸の平面図を制作、収録した。
 一ノ谷合戦(1184年)では史書吾妻鏡(あづまかがみ)」や「平家物語」と、京都の貴族の日記「玉葉(ぎょくよう)」を比較検討。いわゆる「鵯越の逆落し」は源義経の奇襲として長く語られてきたが、実際には摂津源氏多田行綱(ゆきつな)が山手方面の夢野(現兵庫区)の街道を突破した攻撃だった‐との説を示した。研究者らは「義経は一ノ谷(現須磨区)を攻略し、その活躍が英雄的に語り継がれる過程で『逆落し』の物語が生まれた」とする。楠木正成足利尊氏が激突した湊川合戦(1336年)では、合戦の詳しい推移に加え、地域社会への影響を分析。長田神社神職らが動員されるなど地元民が巻き込まれたことや、戦闘終了後の一帯には戦死者を弔う念仏僧や、縁者の行方を尋ねる使者が多くいたことを明らかにしている。
 また、古代・中世における地震や水害などの自然災害史についても独立した章を設けて詳述。経験を蓄積し、自然への理解や防災への心構えを定着させることで減災に取り組もうとのメッセージを添えた。監修した京都大大学院の元木泰雄教授(中世史)は「災害や戦災という苦難から立ち上がってきた人々の姿は震災を経験した現代人にも通じる」と話す。このほか当地の荘園や宗教にも光を当て、神戸の奥深い歴史の魅力を発信する。A5判、1100ページ。6千円。みるめ書房TEL078・871・0551。今後、市内の図書館で閲覧に対応する予定。(仲井雅史)

本記事では,神戸市が編纂を行う市史が完成されたことを紹介.同市史に関しては,同市HPを参照*1.「大震災等の影響で中断」されたこともあり,28年間の時を経て刊行(編纂過程自体がすでに,歴史ですね).「いしにしえの災害を記録することも,本書の一つの特色」*2とのこと.
市史では,例え,記述的な側面が多くとも,描く方の「常識を用いて想像実験を行い,因果関係を推測する」*3論述を通じて,「時間的次元を備えているメカニズムを浮き彫り」*4にされ,長期の「因果連鎖」*5が明らかになることもある.
個人所蔵するには,一重に,物理的な収容空間の限界があるものの,政令指定都市制度の観察者の一人としては,是非とも,拝読したい.

*1:神戸市HP(市政情報市について組織・人事組織から探す企画調整局神戸市文書館)「新修神戸市史

*2:前掲注2・神戸市(新修神戸市史)

*3:升味準之輔『なぜ歴史が書けるのか』(千倉書房,2008年)69頁

なぜ歴史が書けるか

なぜ歴史が書けるか

*4:ポール・ピアソン『ポリティクス・イン・タイム』(勁草書房,2010年)8頁

ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)

ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)

*5:前掲注5・ポール・ピアソン2010年・115頁