改造内閣は、地方の権限・財源を大幅に増やす「地域主権改革」で早速正念場を迎える。国のひも付き補助金を基本的に自治体が自由に使えるように改める一括交付金化の制度設計と、国の出先機関改革の計画策定を年内に控えているためだ。「政治主導」を掲げる民主党政権下でも各省はほぼ「ゼロ回答」を続けており、菅首相はじめ各省政務三役の強力な指導力発揮が不可欠だ。
 一括交付金民主党代表選でも争点になった。小沢一郎前幹事長が地方の裁量を増やす分、大幅に総額を削減する考えを示したが、約21兆円ある補助金の8割程度は義務的な経費のため、自治体から批判が相次いだ。裁量拡大と必要な総額確保を両立できるかが課題だ。他方、民主党衆院選マニフェスト政権公約)で出先機関の「原則廃止」を掲げたものの、各省の前向きな回答は1割にとどまる。やはりマニフェストにある「国家公務員人件費の2割削減」とも密接に絡むため、改革が進まなければ公約そのものの信用が崩れかねない。また菅首相改造内閣の目玉として、旧自治省出身で前鳥取県知事の片山善博慶応大教授を総務相に起用した。中央省庁と地方の現場の両方に精通する論客だが、民間からの起用のため政治力は未知数だ。

岡山県出身だが、自治官僚として出向した鳥取県の知事を1999年から2期8年務めた。公共事業見直しや情報公開を進め、宮城県浅野史郎氏らと並び「改革派知事」と称された。2003年、地方分権改革推進会議の運営をめぐり議長の西室泰三東芝会長(当時)と対立し、「東芝製品不買」に言及するなど過激発言で物議を醸した。鳩山前政権で行政刷新会議の委員に起用され、地方分権の知恵袋となった。自治相秘書官として仕えた故梶山静六氏を尊敬する。59歳。(民間)
片山善博氏略歴
 片山 善博氏(かたやま・よしひろ)59 東大法卒。旧自治省府県税課長、鳥取県知事、慶大院教授。(民間)

自治省、知事を経て大学教授−。総務相に就任した片山善博さん(59)は自治官僚に多いコースを歩んできたが、ゆかりの人が語るのは官僚離れした印象だ。「慣習にとらわれず、発想が斬新。そして家族思い」
 鳥取県知事を1999年から8年務め、情報公開や議会への根回し禁止など改革を進めた。当時情報公開を担当した市場開拓局長の有田裕さん(58)は「従来と全く違った考え方で、初めは戸惑いもあった」と振り返りつつ、「今は当たり前となり、風通しが良くなった」と語る。「愛妻家でした」と明かすのは、元秘書田中恭子さん(39)。高校の同級生だった弘子さんと結婚し、4男2女をもうけた。可能な限り家に帰るなど「家族思い」を隠さず、弘子さんが昨夏に亡くなった後は「気丈な人なのにかなり気落ちしていた」。知事在任中も闘病生活を支えたが、口にしなかったという。
 自治省で仕事を共にした総務省の課長は「旧来の枠にとらわれず、国民が求めるものを追求する思いが強かった」と評する。固定資産税課長だった片山さんは97年、「税収よりも納税者の納得感」を重視した税制の抜本改正を実現。慎重論もあった自民党議員への根回しなど「仕事ぶりは肝が据わっていた」。別の幹部も「マージャンが強く、仕事も勝負強かった」のを覚えている。片山さんが秘書官として仕えた元自治相の葉梨信行さん(81)も「自分の手柄を考えない人。体は小柄だが、大変な力量がある」。総務相の先輩として太鼓判を押した。「初めて勉強が面白かった」と話すのは、片山さんが慶応大で受け持つゼミの1期生代表だった会社員清野航平さん(23)=兵庫県西宮市=。市議会や議員への取材、選挙の手伝いなど実践的な研究が多く、「ほかのゼミとは違った」。「権力が集中する知事と違い、大臣は総理やほかの省庁との兼ね合いが簡単ではない」と思うが、「どんな働きを見せてくれるか、すごい楽しみです」とエールを送った。

片山善博総務相は17日の初登庁後の記者会見で、全国一律で決められている地方税の税率について、「固定しているが、それがいいのかという問題意識がある」と述べ、税率を住民の選択で自治体ごとに変えられるようにするなど、住民の政治参加を拡大する方法を検討していく考えを示した。
 総務相はまた、事務次官について、「見直したらいいという持論を持っているが、内閣全体の問題。以前から(廃止を)仙谷(由人)官房長官に申し上げているが、これからもわたしの考え方を申し上げていきたい」と述べた。

本記事群では,内閣改造に伴う,「地域主権改革」の今後の見通りと,同改造に伴い就任された新総務相について紹介.今後の「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」,「国と地方の協議の場に関する法律案」(地域主権改革関連2法案)及び地方自治法改正案に向けた審議状況は,要経過観察.
総理からは「非常に本質的な意味での地方主権地方分権をですね,進める大きなエネルギーを持った方」*1との認識を示された同相.
第4記事には,同相が「持論」とされてきた「事務次官」のあり方についての認識も紹介.上記の首相記者会見においても総理からは上記三法を始めとして「内閣の一員となるに当たってはですね,過去の内閣としての方針について,基本的には,まず,それは了解をしていただくところからスタートすると,その後の議論ではいろいろあってもいいですけれども,そういうことは御了解をいただいて」*2いるとの応答があったことも反映されてか,「持論」と「内閣全体の問題」とは一先ずの距離感は置かれている認識も紹介されている.「官僚制が行政という相対的に閉鎖的活動体系の組織化ではなく,むしろ,民間人まで含む,その意味で底の抜けた―という表現が悪ければ開放的な―組織としての性格」*3を持つとすれば,その「持論」を元にした「内閣全体の問題」への「開放的」な問題提起も示されると興味深い.
同省の「幹部職員名簿」*4を基に,現在の同省の事務次官を確認させて頂くと,同相と同事務次官は「昭和49年」*5の同期採用となり,いわば「ともぞろえ」*6にある,ともいえなくもない.勿論,大臣と事務次官という職位が異なり,その人事管理の慣行は適用されることは決してないものの,仮に,あくまで,採用年次のみに着目すれば,「駒形」ならぬ「高原型」状態にあるとも解することもできそう.「持論」のまずは塊より始めよと,同年次採用の「Up or Out政策」*7の人事管理の慣行もまた観察されることになるのだろうか.要経過観察.

*1:首相官邸HP(菅総理の演説・記者会見等)「菅内閣総理大臣記者会見」(平成22年9月17日(金))

*2:前掲注1・首相官邸([菅内閣総理大臣記者会見:平成22年9月17日(金))

*3:伊藤大一『現代日本官僚制の分析』(東京大学出版会,1980年)26頁

現代日本官僚制の分析 (1980年)

現代日本官僚制の分析 (1980年)

*4:総務省HP(組織案内)「幹部職員名簿(課長級以上)

*5:神一行『自治官僚』(講談社,1986年)248頁

自治官僚

自治官僚

*6:大森彌『官のシステム』(東京大学出版会,2006年)220頁

官のシステム (行政学叢書)

官のシステム (行政学叢書)

*7:稲継裕昭『日本の官僚人事システム』(東洋経済新報社,1996年)35頁

日本の官僚人事システム

日本の官僚人事システム