市長が2代続けて汚職事件で逮捕、起訴されたことを受けて設置された宝塚市の「前市長の不法行為に関する調査専門委員会」(首席委員=岸本洋子弁護士)は29日、市長や市幹部などの違法行為を監視する常設の外部委員会「行政オンブズマン」の設置などを盛り込んだ最終報告書を市に提出した。
 オンブズマンは、兵庫県弁護士会が推薦する弁護士で構成。市長らの不法行為に気づいた市職員からの通報を受け、調査した上で中止や是正を勧告するほか、議員など公職者から職員への要請は文書化を義務付け、問題がある場合は調査する。また、市長や市幹部らで構成する市の最高協議機関「都市経営会議」の設置規定に、「コンプライアンス(法令順守)」を加えることも盛り込んだ。
 調査専門委は弁護士5人で構成し、昨年5月に発足。計21回の会合で、阪上善秀前市長が収賄罪に問われた公営墓地整備事業、プラスチックごみ選別事業などを調査した。阪上前市長からの事情聴取、市職員や市民へのアンケートも実施した。提出にあたり、委員からは「内部統制システムを整備すれば(市長らの)違法行為を阻止できる」などの意見が出た。報告書は市ホームページで近く公開される。(上杉順子)

本記事では,宝塚市において設定された「前市長の不法行為に関する調査専門委員会」による報告書の同市長への提出について紹介.同委員会による同報告書に関しては,同市HPを参照*1
同報告書内の「別紙9」として「市長などの不法行為再発防止策の提言」*2が取りまとめられており,その提言事項は,「都市経営会議の改革・改善」と「外部委員会の設置」の2つ.まずは,「都市経営会議の改革・改善」に関しては,同市の「都市経営会議設置規程」の「第1条」である「設置」においては「審議事項」として,「市政におけるコンプライアンス」を挿入し,目的として,「総合的,効率的かつ適正な」とする」を規定し,更に,「規程第2条」である「所掌事務」において,「第1項の「市政の円滑な推進」を「市政の円滑かつ適正な推進」とする」と文言を修正すること.そして,「都市経営会議における協議事項について,単に,市の内部から提起される問題に限らず,市の外部委員会等から指摘される意見も含めるようにすること」ともある.また,「「市政の円滑かつ適正な推進」という観点から,会議内容の公表の具体的方法,更に会議自体の公表の是非を検討する必要」も述べられており,「一方,会議における協議の内容及び決定事項について,市の全職員に対する周知の方法,更に,市職員からの意見聴取の方法等についても今後検討すべき」とも提案されている.
2009年10月23日付の本備忘録にて記した,下名の中心的観察課題である「自治体内会議体」の観点からも興味深い提案.総務省に設置され,2009年4月21日に公表された,「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」による最終報告書において,「首長の下に,内部統制の基本方針を協議・調整する「経営戦略会議」(仮称)」*3の設置が提案が示されているなか,同市における同委員会の同提案では,会議体の重畳性を加味してか*4,同種会議体を,同市のいわゆる庁議である「都市経営会議」に機能的収斂を図るという提言の模様.
ただ,同市における「宝塚市都市経営会議設置規程」を拝読させて頂くと,同規定第1条では「市政の基本方針及び重要施策に関する事項を審議し,決定する」*5と規定されており,同会議体が決定機能を有することも窺える.その場合,庁内における決定と庁内に対する(内部)統制が一元的に実施できる利点は窺えそう.ただ,一方で,「隠蔽は過去の方策」*6との観察結果もあるものの,事案次第では,決定主体と統制主体が同一であるがゆえに,その機能的融合性が事案の顕在化を回避する蓋然性も想定されなくもなさそうか.
また,同報告書におけるもう一つの提案事項である,「外部委員会の設置」に関しては,具体的には,同「市に外部委員会として,「宝塚市行政オンブズマン」を設置する」内容が示されている.同報告書では,「委員会」には「市長等(宝塚市長等倫理条例第1条)の違法,不正行為を監視,監督及び是正する権限」,「宝塚市議員など公職にある者(あった者も含む.)からの要請は,職員はその要請を全て文書に記録化し保存することを明確にし,それを調査し,問題事例は公表する権限」を付与こと,そして,「現宝塚市公益通報者保護制度を一部改正し,それに基づく調査権限を付与する」とも提案されている.対象事案が示された折に,同提案で示されている「是正」措置が,厳格に適用されるか,又は他の自治体において設置されたオンブズマンへの観察結果において言及されている,「実際にはより柔軟な形で運用がなされ」,同種の措置に関して「いわゆる伝家の宝刀として取り扱われて」「実際に発せられ」る「事例は数えるほどしかない」*7こととなるか,同オンブズマンが設置された場合の同市における運用状況もまた,興味深そう.

*1:宝塚市HP(市の組織・業務案内行政管理室総務課前市長の不法行為に関する調査専門委員会)「前市長の不法行為等に関する最終報告」(前市長の不法行為に関する調査専門委員,平成22年(2010年)9月29日)

*2:前掲注1・宝塚市(前市長の不法行為等に関する最終報告)49頁

*3:総務省HP(組織案内研究会等終了した研究会等地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会)「内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革〜信頼される地方公共団体を目指して〜」(地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会,平成21年3月)56頁

*4:松井望「首長と事務機構−首長の意思決定機構を支える仕組みとしての庁議制度−」『都市とガバナンス』Vol.12,2009年9月,24頁

都市とガバナンス 第12号

都市とガバナンス 第12号

*5:宝塚市HP(宝塚市例規集)「宝塚市都市経営会議設置規程」(平成15年9月30日,訓令第26号)

*6:金井利之「不祥事の行政学」『自治体における公正で透明な事務執行をめざして』(財団法人日本都市センター,2009年)51頁

自治体における公正で透明な事務執行をめざして

自治体における公正で透明な事務執行をめざして

*7:伊藤智基「法執行の評価・見直し」『ジュリスト』No.1391,2009.12.15,142頁

Jurist(ジュリスト)2009年 12/15号 [雑誌]

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