福井県鯖江市は4月から、市が行ってきた事務事業の企画、運営を希望する団体、法人などに委託する「提案型市民主役事業化制度」を始めた。目的は市民の誇りややりがい、自治力を高めること。本年度は17事業を委託した。当初は「行政の仕事の下請けでは」との懸念もあったが、半年がたち「行事の内容が充実した」と評価する声が増えている。「まちづくりへの参画が楽しみとなり、地元への愛着を感じられるまちにしたい」(牧野百男市長)とする同制度の成果と課題を探った。(鯖江支社・嶋本祥之)
 ■市政の柱
 事業の主催者はあくまで市としながら、公募で運営希望者を募る同制度は、市民でつくる鯖江市民主役条例推進委員会が市に提案し、4月から導入された。牧野市長は「まちづくりの主役は市民」という理念を施策の柱に掲げており、地域主権を進める上で重要な取り組みとしている。本年度分はイベント、啓発行事など17事業(昨年度予算計1122万円)を1398万円で委託。採用した事業には▽花壇コンクール(委託費39万円)▽まちかど歴史浪漫コンサート(同123万円)▽いきがい講座(同406万円)―などがある。
 ■「おおむね順調」
 17事業のうち、現在までに終了したのは5事業。「市民の知恵やネットワークを生かした運営だった」「参加者が増え内容充実につながった」と評価する声は多い。例えば花壇コンクール。昨年は町内会など17団体の参加だったのに対し、今年は幼稚園、保育所も対象に加え計44団体が参加した。7月に本山誠照寺の御影堂で開かれた「まちかど歴史浪漫コンサート」は約250人の集客があり、「良い音楽に加え、寺の歴史的価値も感じられた」と好評を得た。市市民協働課の棚池義治課長は「おおむね順調に進んでいる」と手応えを感じている。
 一方、県外自治体でも近年、同様な取り組みをしている。札幌市は「提案型公共サービス民間活用制度」、千葉県我孫子(あびこ)市は「提案型公共サービス民営化制度」、滋賀県守山市は「市民提案型まちづくり支援事業」の名称で実施。鯖江市のように17事業も採用した自治体は全国的に珍しく、牧野市長は「熱心に行政に参画してくれる鯖江の風土は誇り。行政マンにはない案も生まれており、ありがたい」と話す。
 ■自治力向上へ
 ただ、実際には「市民主役って何?」「関係者以外は制度を知らない。理解していないのでは」と話す市民も多い。牧野市長は「市民への周知徹底が課題。情報発信に努め、息の長い活動の中で理解を得ていきたい」とする。また人件費は少なく、市民はボランティアに近い状況で事業を担っている。市民主役条例推進委員会の蓑輪喜通委員長(57)=新横江2=は「受託者のメリットをどう生み出していくかが課題。指定管理者制度と違い、安ければ良いというものではない。事業内容を充実させるのか、コストを下げるのか。行政と話を詰める必要がある」と指摘する。
 同制度は2年目の来年度分として、来月末まで88事業(前年比21事業増)の運営希望者を公募している。今回は応募者が申請しやすいよう募集期間を昨年の1カ月から2カ月に延長するなど、改善も行った。自治力を高める手法として同制度をいかに充実させていくか、今後の進展が注目される。

本記事では,鯖江市における「提案型市民主役化事業制度」の実施状況を紹介.2010年10月22日付の本備忘録にて,導入以前の実施方針を記録した同制度.本記事では,1年を経過し実際の導入後の実施状況が報道されており,大変参考になる記事.同制度に関しては,同市HPを参照*1
2011年度は「17事業を実施」.「事業の実施」の際には,「市が主催者」とはなるものの,「企画・運営等の実施主体を市民団体等が担」う.具体的には,環境課の「環境活動表彰事業」「買物袋持参啓発事業」,まなべの館の「まなべ学講座」,商工政策課の「家族あいのりの旅(鯖江百景を巡ってみよう)支援事業」,市民協働課の「花によるまちづくりコンクール事業」「ボランティア養成事業」「コミュニティビジネス支援事業」「市民主役フォーラム開催事業」,生涯学習課と都市計画課の「青少年健全育成事業」,長寿福祉課の「いきがい講座」,文化課の「まちかど歴史浪漫コンサート」,そして,市民協働課とスポーツ課の「男女共同参画啓発事業」「男女共同参画推進大会(フェスタ)開催事業」「男女共同参画推進運営事業(地域啓発推進事業)」「男女の社会参画促進事業」「新米お父さん教室開催事業」「スポーツ教室開催事業(リスタート・フレッシュアップ事業)」は一括して,それぞれ一つの「実施主体」*2に委ねられている.比較的,イベント系の事業が採択されている様子も窺えそう.イベント系の事業の性格も反映してか,本記事を拝読させて頂くと,これらの事業のうち「5事業」は「現在までに終了」されている.
2012年度の募集では,「提案型市民主役事業化を進める事業一覧」に掲載された「88事業が対象」*3と対象事業が限定された模様.同取組がイベント系の事業に限定されることなく,広く市民団体等により事業の企画・運営が図らることになる場合,反射的ではあるものの「行政機構によって,政治ユニット全体にわたって一律に解決されなければならない課題」*4に関しても,改めて考えさせられそう.

*1:鯖江市HP「市民主役情報

*2:前掲注1・鯖江市(市民主役情報)

*3:鯖江市HP「提案型市民主役事業化制度にかかる事業提案募集

*4:野口雅弘『官僚制批判の論理と心理』(中央公論新社,2011年)130頁

官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)