生活保護受給者らがギャンブルで浪費することを禁じ、市民にも通報責務を課す小野市の「福祉給付制度適正化条例」案について、市議15人(病気療養中の1人を除く)のうち過半数の11人が賛成の意向を示し、原案通り可決される見通しとなった。16日までの神戸新聞の取材で分かった。
25日の市会民生地域常任委員会を経て、27日の本会議で採決。成立すれば、4月1日から施行される。生活保護などの適正支給を目的とした条例は全国でも例がない。条例案は、生活保護費や児童扶養手当の不正受給のほか、パチンコなどのギャンブルで過度に浪費することを禁止。市民の責務として、不正受給や浪費などの情報を市に提供することを定める。情報が寄せられれば、警察OBらによる適正化推進員が調査する。15日に市会が開いた条例案の審査会では5人が賛成、1人が反対を表明。残る9人に神戸新聞社が賛否を尋ねたところ、6人が賛成、残る3人が「中立」「まだ決めていない」とした。条例案は、市民に対して生活困窮者の情報提供も求めており、蓬莱務市長は「条例が成立すれば、生活保護の受給者は逆に増えるだろう」としている。
同市には市内外から千件を超える意見が寄せられ、条例案に肯定的な意見が約7割。一方、兵庫県弁護士会が「憲法違反の疑いがある」として反対声明を出すなどしており、条例案の成否が注目されている。(高田康夫)
本記事では,小野市における「福祉給付制度適正化条例案」の審議過程を紹介.同紙による同市議会議員への取材結果では,「原案通り可決の見通し」となる模様.同条例案は,同市議会に提出されている他議案は題目のみの公開ではあるものの*1,同議案に関しては同市議会HPにて公開されている.参照*2.
同条例案は10条から構成されている.まず,第1条では,目的を規定.具体的には,「公的な金銭給付」が「偽りその他不正な手段による給付を未然に防止する」こと,そして,「福祉制度に基づき給付された金銭の受給者」が「これらの金銭を,遊技,遊興,賭博等に費消してしま」うことで「生活の維持,安定向上に努める義務に違反する行為を防止すること」として,これらにより「福祉制度の適正な運用とこれらの金銭の受給者の自立した生活支援に資することを目的」と置いている.第2条では,用語の定義.第3条では,受給者の責務と,市から指導と指示に対する受給者の対応を規定されている.責務に関しては,具体的には「給付された金銭を,パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消し,その後の生活の維持,安定向上を図ることができなくなるような事態を招いてはならない」こと,そして,「常にその能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図る」こと,「給付された金銭が受給者又は監護児童の生活の一部若しくは全部を保障し,福祉の増進を図る目的で給付されていることを深く自覚して,日常生活の維持,安定向上に努めなければならない」こととある.第4条では市の責務,第5条では市民と地域社会の構成員の責務を定め,「福祉制度が適正に運用される」ために「市及び関係機関の調査,指導等の業務に積極的に協力する」ことを規定する.第6条では「適正化協議会」,第7条では「福祉給付制度適正化推進員」の設置.第8条では「不正利得の徴収等」,第9条は個人情報の取扱い,第10条は施行に関する必要な事項を市長が定める旨を規定されている.
第3条に規定されている「パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消し,その後の生活の維持,安定向上を図ることができなくなるような事態」は限定的に解されることになるか,または,受給後での「品格条項」*3的に解されることにもなるのか,制定後の具体的な制度運用の過程も要確認.
*1:小野市HP(市議会の活動:市議会の日程・審議結果:第384回市議会定例会(平成25年3月))「第384回小野市議会定例会提出議案一覧表」
*2:小野市HP(お知らせ:新着情報:第384回市議会定例会「議案第17号 小野市福祉給付制度適正化条例の制定について」を公開します。)「議案第17号 小野市福祉給付制度適正化条例の制定について」
*3:岩田正美「生活保護を縮小すれば,本当にそれで済むのか?」『現代思想』Vol.40-11,2012年9月,60頁