高知県高岡郡四万十町が、2015年度からの「地域自治区」導入を見送った。「住民の制度への理解や自治区を担う人材が不足している」と理由を説明する中尾博憲町長。しかし、四万十町は県内初の導入を目指し、2006年の旧3町村合併以前から足かけ10年近く、自治区について町や四万十町議会、住民代表らが議論を重ね、住民説明会も行われてきた。住民自治を充実させる構想はなぜ行き詰まったのか。背景を探った。
 「やっぱり、と思った」。榊山町の沖徳之区長(61)は中尾町長の判断をある程度予想していた。 「来年度、自治区をやるという割に、住民説明会で町の説明には馬力がなかった。本当にやるがやろうかと疑問やった」
 参加5.6%
 四万十町は、旧窪川町・大正町・十和村の3町村が合併し、2006年3月に発足。自治区は合併協議の中で、大正、十和両地域の行政サービス低下を解消する手段として検討された。 自治区は、住民が意見を取りまとめ、町長への意見書提出などを行う「地域協議会」を設置して自治を強化する地方自治法に基づく制度。四万十町は合併後にまとめた四万十町地域振興計画にも盛り込んだ。 10年にはまちづくり基本条例が制定され、自治区を「目指す」ことを明記。2011年から、住民代表らでつくる検討委員会と町が制度設計の検討に入った。最終的に9自治区を設ける制度案をまとめ、2013年度から四万十町内68カ所で説明会を開いてきた。 しかし、参加者総数は計868人。20歳以上の町人口のわずか5・6%で、関心の低さが顕著だった。  
 大義なし?
 「結局、旧役場が地域振興局の形で残り、職員数も当初想定されたより減少せず、自治区を導入する大義がなくなった。住民はなぜ自治区なのか理解できないのでは」 そう指摘するのは旧3町村の合併協議に関わった四万十町職員OBだ。 四万十町議会も自治区の勉強会などを続け、県外視察も行ったが、「うまく機能しているところは少なかった」とある議員。住民主導の取り組みの難しさを痛感したという。 全国で初めて2005年1月から自治区を導入している新潟県上越市の担当者も、「自治区導入の意義を住民に理解を得るのに非常に苦労した。地域によって温度差が大きく、住民の意識が高くないと運用は難しい」と話す。 総務省によると、地域自治区を設けるのは今年4月現在、全国11道県の17市町。一方で、定着しなかったなどの理由で導入後に取りやめた自治体も、千葉県香取市など少なくとも4市町ある。
 関心が高まらなかった理由は他にもある。 昨年9月、大正地域で開かれた住民説明会。参加者の一人が声を上げた。「制度の説明ばかりやのうて、もっと実例を挙げて自治区をやったらえいという利点を教えてや」 が、四万十町幹部らは答えに四苦八苦。「なかなか難しい制度でして…」。具体的な説明ができなかった。 検討委員会のオブザーバーを務めた高知大学鈴木啓之教授は「検討委や町は区割りや地域協議会委員の人数など枠組みづくりに時間を費やしすぎた。協議会の活動などを十分議論できないまま住民説明会に入ってしまった」と指摘する。
 決着は…
 四万十町は合併時2万1千人だった人口が約3千人減少。高齢化率も40%を超える。自治区の行方にかかわらず、地域再生には住民の主体的参加が不可欠となる。 中尾町長は自治区について、2018年4月の任期までに導入の是非を決める考えだ。 検討委で委員長を務めた山本恒さん(78)=久保川=は「住民が行政や自治に関心を持つきっかけになると期待したが…。何年もかかった議論。無駄にしてほしくない」と訴える。 鈴木教授は「住民の自治能力を高めるのは容易でない」としつつ、こう注文を付ける。「自治区導入を撤回するのであれば、町長は根拠を示し、住民や議会との話し合いのプロセスをきちんと踏む必要がある」
 住民代表を巻き込んで議論し、振興計画や条例の中に位置付けてきた制度だけに、決着は容易ではない。

本記事では,四万十町における地域自治区の設置方針を紹介.
2013年8月には同町が設置した「四万十町地域自治区検討委員会」*1から提出された『答申書』では,「地域全体の振興を目指すことがより望ましいとの結論」から「9の地区」*2に設置をする案が提示.同答申書を受けて同年11月に「四万十町地域自治区の設置に関する条例原案」*3を公表した同町.本記事によると「2013年度から」同「町内68カ所で説明会」を開催してきたものの,「住民の制度への理解や自治区を担う人材が不足している」ことを「理由」として,「2015年度からの「地域自治区」導入を見送」ったことを紹介.
設置後には「委員の自己負担」*4が想定される同制度.まずは,同制度への理解が前提ともなるのだろうか.今後の検討状況は,要観察.

*1:四万十町HP(組織でさがす企画課)「四万十町地域自治区検討委員会会議録(要旨)

*2:四万十町HP(四万十町通信(広報))「四万十町通信」2013年9月号,6頁

*3:四万十町HP(組織でさがす企画課)「四万十町地域自治区の設置に関する条例原案)

*4:宇野隆俊「地域自治の課題と展望」 山崎仁朗, 宗野隆俊編『地域自治の最前線』(ナカニシヤ出版,2013年)227頁

地域自治の最前線―新潟県上越市の挑戦

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