横浜市は、社会的課題を解決する活動に対し、行政の補助金助成金の代わりに民間の投資資金を活用する「社会的インパクト投資」の実施に向けたモデル事業を始めた。子どもの居場所づくりや学習を支援する南区の交流拠点に金融機関が資金提供し、効果を検証する。十月下旬に始まっており、二〇一八年三月まで行う。 (志村彰太)
 社会的インパクト投資は、公共性の高い活動を担う民間団体に投資家が資金提供し、行政は一定期間後に成果に応じた報酬を上乗せして償還する手法。公的資金を効率よく使い、投資家の新たな出資先にもなると期待されている。発祥地の英国では活発に投資されている。ただ、費用対効果を公平に測れるかなどの懸念もある。
 市のモデル事業の対象は、南区睦町の多世代交流拠点「コミュニティーサロンおさん」。小中学生の学習・生活支援、昼食と夕食の提供、居場所づくりに取り組む。複雑な事情を抱える子どものために地域主体で設けた施設で、居場所づくりと昼食提供のみを行った四〜八月に延べ四百十六人が利用した。活動の幅を広げた分の経費を外資系証券会社が支援(支援額は非公表)する。
 明治大の塚本一郎教授が社長を務める大学発ベンチャー「公共経営・社会戦略研究所」が効果を検証する。学校の出席率改善や学習意欲の向上、健康状態の変化を子どもや保護者へのアンケートで把握し、数値化して「おさん」の活動との関連性を分析する。
 このモデル事業の場合、証券会社の資金提供を寄付金扱いとし、償還は必要ない。子どもの支援への効果を計測する手法の確立を優先していく。また「おさん」にこれまで補助金が投入されたこともないため、行政経費削減の検証もしない。
 塚本社長は「貧困の連鎖を防ぐには早期介入が重要。モデル事業の期間は短いが、信頼できる評価をしたい」と話した。「おさん」を運営する社会福祉法人「たすけあい ゆい」(横浜市南区)の浜田静江理事長は「社会貢献としてボランティアでやってきたが、資金提供で活動の幅を広げられる」と意義を語った。
 国内の社会的インパクト投資に向けた実証実験では昨年、横須賀市特別養子縁組をマッチングする団体を対象に、モデル事業を開始。児童養護施設の運営経費と比較する。他にも兵庫県尼崎市が就労支援で、福岡市が高齢者の認知症予防事業で検証している。いずれも横浜市と同様、資金を寄付金で賄い、償還まではしていない。

本記事では,横浜市における「社会的インパクト評価」の取組を紹介.
「サービス提供を通じて生じる子どもの学習意欲向上など」の「成果」「アウトカム」を「定量的・定性的に把握し」「その結果をもとに」「社会的インパクト評価」を実施することをねらい」*1となる同事業.「今回のモデル事業」は本記事で紹介されている通り,「民間事業者からの寄附金を原資」に「実施し」,同市からの「費用償還」*2は無い模様.
「行政の中」で「課題解決の全てを」「税金では賄いきれない」との判断のなか,「企業」の「参加」による「本格的な投資がされ,社会的な課題が逆に企業の利益につながっていく」*3ことを目途とする同事業.「政策の投入量との関係」*4の把握結果は,要確認.

*1:横浜市HP(市長定例記者会見2016市長定例記者会見(平成28年10月25日)民間事業者と横浜市が連携し 社会的インパクト評価のモデル事業を実施 〜子どもが安心して過ごせる居場所づくりに取り組みます〜)「民間事業者と横浜市が連携し 社会的インパクト評価のモデル事業を実施~子どもが安心して過ごせる居場所づくりに取り組みます~」(平成28年10月25日,政策局共創推進課)

*2:前掲注1・横浜市(民間事業者と横浜市が連携し 社会的インパクト評価のモデル事業を実施~子どもが安心して過ごせる居場所づくりに取り組みます~)

*3:横浜市HP(市長定例記者会見2016)「市長定例記者会見(平成28年10月25日)

*4:伊藤正次,出雲明子,手塚洋輔『はじめての行政学』(有斐閣,2016年)236頁

はじめての行政学 (有斐閣ストゥディア)

はじめての行政学 (有斐閣ストゥディア)