奈良県庁を奈良市外に移転すべきだ−−。こんな「遷都」が県内で論争になっている。先月には、移転を求める初めての決議案に県議会(定数44・欠員1)の過半数が賛成した。県内の人口や経済面の格差を是正する狙いがあるが、実現のハードルは高く、議論自体に冷ややかな声もある。【新宮達】
 奈良県は南北約100キロの縦長で、県庁がある奈良市はその北端にある。決議案は県議会本会議の採決に加わった40人のうち、中部や南部選出の議員を中心に23人が賛成に回った。他に体調不良で欠席した2県議も賛成の意向だ。
 背景にあるのは奈良県内の「南北格差」だ。奈良市を中心とする北部は戦後、京阪神ベッドタウンとして人口が急増し、官公庁や企業が集中する。一方、県の南部、東部の19市町村は面積では県全体の約8割を占めるが人口では1割ほどにとどまり、ほとんどが過疎地域だ。
 決議書では「県土の均衡ある持続的な発展」のため、県庁を中南部の拠点都市、橿原市周辺に移転することを求めている。賛成派のある県議は「(県庁の)人をまず動かすことで、アンバランスな県内の経済構造を変えたい」と語る。
 ただ、決議に法的拘束力はなく、正式な移転決定には、県議会の3分の2以上の賛成で県条例を改正する必要がある。30人程度の賛成が必要だが、奈良市選出のある県議は「財政的な負担が大きく、県民の間で議論の盛り上がりもない。そんな話をしている時ではない」と疑問を呈す。
 庁舎を移転する場合、建物の整備だけでも300億円程度かかるとされ、荒井正吾知事は決議後、「ノーコメント。決議は尊重し、今後の県政運営の参考にしていく」と険しい表情を見せた。
 県庁移転を求める声は長野や福島県内などでも以前からある。ただ、明治期に現在の都道府県の区割りが確定して以降、実際に庁舎所在地が変わったケースはほとんどない。
 福島では県内の一部自治体が、県北端の福島市から県中部の郡山市への移転を求める要望書を県に出したことがあるが、2011年の東日本大震災もあり、論争は下火になっている。
 同志社大の真山達志教授(地方自治論)は「数十年前なら県庁ができれば周辺の発展が期待できたかもしれないが、今や現実的でなく、膨大なコストを要する割に地域活性化はあまり期待できない」と指摘。「県南部へのリピーターを増やす観光施策を考えて実行していくなど、もっとソフト面に資源と知恵を割くべきだ」と話す。

本記事では、奈良県における同県議会による決議を紹介。
2018年「3月23日」に同県議会が決議した『奈良県庁の橿原市周辺への移転を求める決議 〜「還都 飛鳥・藤原京」の実現に向けて〜 』*1。同決議では、同県が「南北に長い形状が特徴」のなか、同「県庁」が「明治20年奈良県設置以来現在まで」「県土北端の奈良公園内に所在」することで「地理面で偏り」*2があるとの認識が提示。他方で、「現在奈良県」では「県の中南部地域の振興施策に取り組ん」でおり、「県内から関西国際空港へのアクセス」を考慮すると「現在でも利便性が高いのは」「県の中南部地域」であり、今後「リニア中央新幹線の全線開業が見込まれる」なかで、同県「南北に縦断する形での当該空港との接続強化」が「提唱」*3されているとの見通しが示されている。
そして、同決議では、これらの「影響力を全県に波及させること」により、「県土の均衡ある持続的な発展を確たるものとすることにつながる」と捉え、「その起爆剤」として「いにしえには日本の首都」である「飛鳥・藤原京」が「置かれ」、「現在も中南部地域で県下2番目の都市を擁する橿原市周辺」に「県庁移転」を、「いわば」「還都」と位置づけ「提案」*4している。
「都市の中心」*5をめぐる同決議。移転を含めた検討状況は、要経過観察。

*1:奈良県HP(県の組織議会事務局奈良県議会意見書・決議平成30年)「決議第1号

*2:前掲注1・奈良県(決議第1号)

*3:前掲注1・奈良県(決議第1号)

*4:前掲注1・奈良県(決議第1号)

*5:砂原庸介「庁舎と政治 都市の中心をめぐる競合と協調」御厨貴井上章一『建築と権力のダイナミズム』(岩波書店、2015年)138頁