長年にわたって自治体が続けてきた職員互助組織や外郭団体への公費補助について、司法が相次いで「違法」との判断を示している。最近3年間をみても、住民らが首長らを訴えた公金支出返還訴訟の判決のうち、神戸地裁は計10件で住民らの請求を認めた。4月には、神戸市が外郭団体に支出した補助金について、計約48億円の返還を市長らに命じた。不透明な公金支出に対し、裁判所が「より慎重な判断」を求めた形。しかし、違法とした根拠が判決で明確でないため、自治体側は対応に頭を悩ませている。(三島大一郎)
 自治体の公費補助をめぐっては、職員の厚遇問題がこれまで批判の対象となってきた。県内では小野市が二〇〇五年度から、職員互助会への支出を廃止。神戸市や姫路市などは、互助組織の一部事業を廃止したり、支出を減額したりした。厚遇問題について神戸地裁は〇六、〇七年、永年勤続表彰職員に神戸市が支給していた最高十万円相当の旅行券や、同市が市議OBに支給していた交通機関の無料パスなどを違法とした。旅行券については〇七年十月、市側の敗訴が最高裁で確定した。一方、福利厚生を名目に、自治体が職員に直接支給した旅行券などと違い、互助会や外郭団体に補助し、間接的な形で支給したものでは、司法の判断が分かれたり、違法とした根拠が分かりにくい判決内容になったりしている。神戸地裁は今年三月、兵庫県が公費補助していた県の福利厚生を扱う三団体の事業のうち、死亡弔慰金や出産祝い金の支給を違法とした。ところが、一カ月後、同地裁は、神戸市が公費補助した市職員共助組合が支給した死亡弔慰金や出産祝い金を「公益上必要がないとはいえない」と認めた。違法としなかった理由の一つとして、有識者による外部調査で同市の公費補助が「やや適格」との評価を受けていることを挙げた。また、外郭団体に派遣した職員への人件費支出に関する裁判で、同地裁は「神戸市は公益上の必要性を審査せず判断を放棄した」とした。しかし、具体的に何が違法か、判決は明確な“線引き”をしていない。そのため、市側は「他都市と同様の基準で運用している。どんな根拠で審査してないというのか」と戸惑いを見せている。こうした司法判断について、龍谷大の坂本勝教授(行政学)は「行政は適切に対応していると思っていても、税金の使い方など市民の目線で十分に考えられていない。司法も、公費補助はより厳格にすべきだと考えるようになった」と評価する。違法とする根拠が判決で明確でないことについて「指摘があいまいで、勧告的なレベルにとどまっている。行政に対して司法が踏み込めないところがある」とする一方で「そうした指摘をするのは本来、議会の役割。議会などがしっかり機能し、厳しい意見を投げ掛けていくべきだ」と話している。

同記事では,職員互助会に対する公金による補助支出に関する司法判断を紹介.兵庫県に限らず,他の自治体においては,「母屋」である助成側の財政状況から,「はなれ」の互助会への公費補助を廃止する自治体が増加しつつある*1
公費助成への是非は置いておき,自治体は同種の判決に至るまでには,どの程度,同助成に対しては自覚的であったのだろうかと考えさせられる.各自治体では,互助会への助成については,地方公務員法第42条に基づき行われているとされてきた.例えば,同法の解釈本においては,互助会の要件としては,「互助会の費用は主として職員の掛金と地方公共団体補助金を以て充てられていること」*2*3が指摘されており,助成には比較的ポジティブな判断を示している.ただもちろん,互助会は任意的な組織であるため,助成の全てを認めているものではない.例えば,従来より補助金や貸付金を互助会に支出して,これらが職員にとって「給与のプラス・アルファ」*4とされる場合には「留意が必要」ともされてきた.
司法判断により違憲判決を示されると,自治体側にとっては,公金支出の根拠自体が揺らぐこととなる.もちろん,同法(および地方自治法も同様)の解釈本は「各条の趣旨と意味を明らかに,その運用の実際と問題点を解明しようとするもの」(3頁)であり,これらの解釈本が合憲解釈を示したものではない.ただ,自治体も自らの判断で公費助成を行ってきたとはいえ,その根拠には,これらの解釈本等の影響もあるのかなあとも思う.更に遡れば,同法制定時の政府内部での判断では公金支出をも認めたうえでの法制定であったとも察せられる.
結局は,法令解釈権は,自治体にあらず司法にあり,といういわば当然のことを実感.

*1:朝日新聞2008年2月1日「大阪府、職員互助団体への補助金を全廃へ 橋下知事方針」.同記事によると,21道府県で廃止とのこと

*2:鹿児島重治『逐条地方公務員法』(学陽書房,1996年)602頁

逐条地方公務員法

逐条地方公務員法

*3:橋本勇『新版 逐条地方公務員法』(学陽書房,2002年)702頁

新版 逐条地方公務員法

新版 逐条地方公務員法

*4:石井隆一編『福利・厚生・共済』(ぎょうせい,1991年)342頁

福利・厚生・共済 (地方公務員制度)

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