舛添厚生労働相は19日、町村官房長官、増田総務相地方分権改革をめぐって首相官邸で折衝し、認可保育所など福祉施設の全国一律の「設置最低基準」について、目安となる「標準的な基準」とするよう見直し、市区町村ごとの条例で独自基準を設定できるよう検討する考えを表明した。見直しが進めば、地域の実情に応じた保育所が設置しやすくなり、待機児童の解消につながる。保育所の設置最低基準が見直されるのは、基準が最初に設けられた1948年以来初めてで、国民生活に直結する分権改革となりそうだ。
最低基準の緩和は、政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)が、「北海道から沖縄まで一律で縛るのはおかしい。科学的根拠がない」などとして、28日にも福田首相に提出する第1次勧告に盛り込む方針だ。しかし、厚労省はこれまで、「保育サービスの質の確保が困難」などとして、見直しに慎重だった。方針転換した理由について、厚労相は会談後、「国が全部決めて、ハシの上げ下ろしまでやるのはどうか。質の劣化は阻止しないといけないが、悪い施設になれば、そこの首長が選挙で落ちるだけだ」と、各自治体の対応を尊重する考えを記者団に説明した。保育所施設の最低基準は、児童福祉法に基づく省令が定め、施設の広さの確保や調理室の設置義務などが細かく決められている。見直し後は、市区町村ごとの裁量で地域の実情にあった保育所を設置できる。例えば、土地に余裕がない都市部では、駅前近くのビルに開いたり、山間部では廃校舎や空き家の転用などが可能になる。一方、冬柴国土交通相も19日、官房長官らと会談。直轄国道(約2万2363キロ・メートル)のうち、15%を「整備と管理一体」で都道府県に移譲する考えを示した。一つの都道府県内で完結する一級河川の管理権限については、53水系のうち、40%を移譲する考えを伝えた。

同記事では,5月19日に開催された大臣折衝において,厚生労働大臣としては,福祉施設認可保育所に関する設置最低基準を「最低基準」から「標準的基準」とし,自治体毎で基準を設けることができるように変更することを検討する考えであることを紹介.
保育所設置に関する「最低基準」には,施設整備の許可基準,運営監督の基準,そして,施設運営費の補助基準として役割があるとされ,「実際には最低基準であるはずだが,最高基準化しているのではないかとの見解も強い」*1と解されることもあった.振り返ってみれば,第一期第一次*2地方分権改革である,地方分権推進委員会の時期には,「地域の実情に応じた効率的・効果的な施設の設置運営を妨げる」と考え,幼保一元化の検討の審議文脈において,設置基準の見直し・弾力化を検討したものの,「設置基準の見直しには慎重な構えを崩さなかった」*3とされ,見直しには至らなかった.また,第一期第二次地方分権改革である,地方分権改革推進会議においても「保育所の設置、運営については全面的に地方の判断に委ねるべきとの合意が形成されるのであれば、それに併せて保育所運営費負担金等の国による補助負担金の一般財源化等も検討されるべきと考える」*4ともある(なお,保育所運営費負担金は同期同次の「三位一体の改革」により一般財源化).そして,第二期第一次の地方分権改革である地方分権改革推進委員会の『中間的なとりまとめ』に記載された*5.実際に見直しに至った場合,長きにわたる検討期間を経てではあるものの,地方分権推進委員会以来の「自由度の拡大路線」が具現的に結実した事例となり高く評価できるよう.
第二期第一次地方分権改革における,勧告提出以前の「大臣折衝」の機能・成果と,地方分権改革推進委員会、そして経済財政諮問会議との間での棲み分けとマッチングについては,「大臣折衝」がこれらの審議会のための「前裁き」であるか,または第一期第二次地方分権のように検討・審議の「場」が移動したのか,これはこれで,別途政治学的には観察検討すべき興味深いテーマ.
自治行政上の観察テーマとしては,見直しが実現された場合の基準設定の動向が,気が早いものの興味深い.例えば,自治体総体の動向としては,同基準が収斂するか,分散的であるのかという視点と,その際に何を基準として採用するのかという視点から考えてみれば,例えば,①各自治体で個々別々の基準を策定し続けるパタン(分散系自治型),②旧来の設置基準を事実上の基準として利用し結局は収斂するパタン(収斂系既置型,又は経路依存型),③他の自治体間の動向を見つつ,自治体独自の事実上の基準観が形成され,それらが(自治体総体又は一定範囲内の何れかで)共有化されるパタン(収斂系自治型)*6が考えられるのではないだろうか.実現後も要観察.

*1:金香子『現代日本における保育政策の変容』(東京大学行政学研究会研究叢書3,2006年)56頁

*2:この時代区分の名称が自治業界的には共有されつつあるが,個人的には,どうもマンション分譲販売のようで,しっくりとは来ないが.

*3:大森彌「分権改革と幼保行政」大森彌編著『分権改革と地域福祉社会の形成』(ぎょうせい,2000年)7頁

分権改革と地域福祉社会の形成 (分権型社会を創る)

分権改革と地域福祉社会の形成 (分権型社会を創る)

*4:地方分権改革推進会議『事務・事業の在り方に関する意見 −自主・自立の地域社会をめざして−』(2002年10月20日)10頁

*5:地方分権改革推進委員会HP『中間的なとりまとめ』(2007年11月16日),22頁

*6:田口一博「自治体間の横の連携」森田朗/田口一博/金井利之編『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)169頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

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