堺市木原敬介市長は4日、政令市移行(2006年4月)に伴い全国で初めて導入した南区長の民間公募を取りやめる、と市議会で表明した。現在の公募区長は今月末に任期満了だが、後任は職員から選ぶといい、「市政への市民参加が後退する」と疑問の声が上がる。住民らでつくる「泉北ニュータウン学会」の西上孔雄事務局長は「民間区長には仕事のスピード感があり、市民と一緒に街づくりを熱心に進めていた。非常に残念だ」と話している。

同記事では,堺市がモデル的に行ってきた行政区の区長への公募制度について,今月末の任期終了をもって,公募を行わない方針であることが紹介.
同市の同制度については,同市が政令指定都市へ移行した際の市長記者会見においても,「市の職員で区長というのを担当すると,どうしても,2年で最後を区長で退職するということ」なるという制度的な背景*1から,「できるだけ市民感覚で,地域の事情に詳しい,そしてまた,行政的なこともご理解いただける,そういう方を対象にしたいと思います」との制度構想が示されていた.同構想が実現されることにより,「区域の行政が,自治の拠点として市民と協力・共存していくという,パートナーシップを組めるという,そういう区役所にしていく,一つの大きな足がかりとしたいと思っています」*2との期待感があった模様.また,同構想は,政令指定都市移行後の「施策重点化の方向を示」した『自由都市・堺 ルネサンス計画』(計画期間:2006年度〜2009年度)においても明記されており,「市民の視点に立った,開かれた区政運営を図るとともに,地域で活躍する民間人の知識や経験を行政運営に活かすため,区長の公募を実施」*3とある.実際の公募には,「論文審査や面接で,市職員OBら応募27人」*4があり,「唯一の他薦候補」*5であった現在の南区長が選出された.任期は「1年間で,最長3年まで延長」可能とされていたたため,本年度末で延長された任期満了となる.
1993年に当時の政令指定都市の区長に対して実施された「指定都市における区制度に関する調査」(対象127区長,回収率76.4%(97区長))に基づく分析結果を拝読すると,「区長職との特徴」としては,「法令で定められた職務の遂行と同じ程度に,法令で定められた職務以外の役割を果たすことに特徴がある」とされており,特に後者(法令上の役割以外)に関しては,「市(本庁)と区民の間にあって,相互の意思疎通を円滑にする役割を担っている」が最多の回答となり,「もっとも特徴のある役割」とされている*6.同調査結果からは,当時からも,既に区長自身の「認識」レベルでは,「開かれた区政運営」が行われていた,とも解することができなくもない(か).
あくまで「モデル」的な取り組みといわれるとそれまでではあるが,同市の外部公募制廃止へと至った背景や理由は,同記事のみの情報のため把握できない.何故なのだろう.今後は,同市の,区役所機能に関する路線(大区役所制路線,小区役所制路線,強区長制路線,弱区長制路線)選択次第とも思われるが,例えば,一つの路線として「強区長制」*7が選択された場合には,公募制ではやや困難となるのだろうか.内部人事異動となることによる,区政運営の変化があるのか,要経過観察.

*1:なお,下記注6の調査結果からは,「12市全体の平均は約2年5か月」(126頁)とある.現在でも概ね「2年」で人事ローテションされているのが標準的なのだろうか,興味深い.

*2:堺市HP(広報・広聴市長記者会見)「政令指定都市の閣議決定について」(平成17年10月21日(金))

*3:堺市HP(財政局企画部自由都市・堺 ルネサンス計画)「【3】.重点施策 8.市民とともに取り組む市政・まちづくり」(平成17年10月21日(金))

*4:読売新聞(2006年3月11日付)「全国初の民間公募区長に選ばれた古川洋子さん

*5:共同通信(2006年3月10日付)「初の公募区長に64歳主婦 地域活動30年、大阪・堺

*6:沼尾史久『大都市における区政と区長』(東京市政調査会会,1996年)18-19頁(それにしても,同調査,マニアックな調査です.是非,現代版としても実施してみたいなあ)

*7:伊藤正次「行政組織の構造と変遷」財団法人東京市政調査会編『大都市のあゆみ』(指定都市市長会,2006年)229頁

大都市のあゆみ

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