3年後に市制50年を迎える小平市がユニークな市史編集に取り組んでいる。市史といえば、政治や経済が中心で取っつきにくい印象。ところが、同市史は編集の過程で広く聞き取り調査を行うなど「市民参加」を採り入れ、公的文書には残りにくい生活様式や意識の変化、市民活動など「今につながる身近な歴史」の発掘・検証に重点を置いている。(水野雅恵)
 小平市は1962(昭和37)年に市制移行。市制50年を迎える2012年度に、古代から昭和50年代ごろまでの歴史を扱う小平市史3巻と別冊の図録・写真集2巻を刊行する計画だ。古代以降の通史を扱う自治体史は、59(昭和34)年発行の「小平町誌」以来になる。
 昨年10月に市史編さん委員会(委員長・大石学東京学芸大教授)が発足。大学教授など専門家7人に交じって、郷土史の聞き取りを続けてきた今井美代子さん、玉川上水保全活動に取り組む庄司徳治さんが市民委員として加わった。2人は聞き取り調査に適した人の選定や紹介など、市民とのつなぎ役を担う。
 フィールドワークや聞き取り調査は、歴史学民俗学の専門知識を持つ若手中心の調査専門委員6人が担当。現地調査は年150回余にのぼる予定で、すでに市無形民俗文化財・鈴木ばやしの練習見学や市内の寺社、古老などへの聞き取りが始まった。「戦前から戦中、戦後の生活の変化を知る年代から直接話を聞ける最後のチャンス。小平を変えた近代化の波がどのようなものだったか、具体的な体験から検証したい」と蛭田廣一・同市市史編さん担当参事は話す。
 早い段階で編集過程の研究成果を市民で共有し、まちの歴史に興味を持ってもらいたいと、市史研究誌「小平の歴史を拓(ひら)く」を創刊した。創刊号には編さん委員全員が専門分野から見た小平の姿、市史への期待や抱負などを寄稿。このほか、名産の「小平イモ」から見た戦時期の姿、高度成長期の公民館を舞台に「金の卵」たちが定着していく過程など、調査専門委員によるユニークなコラムや調査報告もある。「小平の歴史を拓く」は1千部発行、290円。同市内の図書館や同市役所市政資料コーナーで販売している。今後、ほぼ年1回のペースで13年度まで計6冊発行する予定。情報提供や問い合わせは同市市史編さん担当(042・341・2324)へ。

同記事では,小平市において,同史市編纂作業において,聴き取り調査等の「市民参加」型の取り組みを行っていることを紹介.同取り組みについては,同市HPを参照*1.市史編纂過程や手法については,下名当該分野を全く把握していないため,同市の「市民参加」による取り組みの全国的な市史編纂手法内での位置付けが,恥ずかしながら皆目分からないものの,同市の取り組みからは,自治体の歴史を描くことは,特にその史料面から,非常に困難性を伴うものであることを実感.
例えば,地域の歴史を把握にするには,「そもそもこうした地域の歴史や生活については文字で書かれた資料は少ない」として,「地域史はオーラル・ヒストリーでなければわからない」*2と「聞き書き」の重要性が指摘されている.そして,その「聞き書き」に際しては,「聞き手である自分を好きになってもらって,もっともっと話す気分になってもらうスタイルで聞いていく」(171頁)ことや,「地域の聞き書きのキーパソン」「誰が町の中をよく知っているか」となると,「地域に長く住んでいる名家のお嬢さんではなく」,「各家に出入りをする商売をやっていた人たち」(173頁)ともある.同様のことが自治体の歴史を描く場合にも該当し,特に,各自治体の行政史に止まらない場合には,文字化されていない事象が多くことも想定され,同市のように「市民参加」を通じた「聞き書き」を通じた,極めて「対話的構築主義*3的な接近法が有効なのだろう.
とはいえ,当然,同手法には限界もある.また,得られた内容を網羅的に描こうとしても,より分かりにくいことにもなる.そのため,最終的には「歴史家は,常識にしたがって行為や出来事の多元的複合的因果関係の中から最も関心のある数少ない因果関係を選択抽出し,それを軸として因果関係を単純化する.歴史は,単純化した筋書に沿って叙述される」*4こととなる.そして,「必要な重要部分が脱落」することや「書くうちに彼の関心が増殖・移動する」ことも想定され,その場合には「そのとき彼は,常識にしたがって他の因果過程を取り上げて脱落を補充する.あるいは因果過程を差し替える」ことになり.この「補充や差し替えや組み替えによって斬新な筋書や叙述が光彩を放つかもしれない」(69頁)ともされる.となると,相互作用としての接近を経た後の,叙述する歴史家側の役割もまた大きいといえそうか.

*1:小平市HP(企画政策部市史編さん担当)「小平市史編さん基本方針」及び「市史編さん委員

*2:御厨貴『オーラル・ヒストリー』(中央公論新社,2002年)171頁

オーラル・ヒストリー―現代史のための口述記録 (中公新書)

オーラル・ヒストリー―現代史のための口述記録 (中公新書)

*3:好井裕明『「あたりまえ」を疑う社会学』(光文社,2006年)131頁

「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス (光文社新書)

「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス (光文社新書)

*4:升味準之輔『なぜ歴史が書けるのか』(千倉書房,2008年)69頁

なぜ歴史が書けるか

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