六月の東京都中野区長選に四選出馬を表明した田中大輔区長(62)は十日、区長の任期を三期以内に自粛すると定めた区自治基本条例の多選自粛規定の削除を目指す方針を明らかにした。この規定は田中区長が一期目に自ら提案した経緯があり、区議会では「何のための規定か」と反発の声も出ている。区長選で争点になりそうだ。
 田中区長は、本紙の取材に「区長をやってみると、方針を決める必要のある区政課題は多く、任期は決められないと分かった」と説明。「けじめを表明し、区民に判断を仰ぎたい」と述べた。田中区長は二〇〇二年、「二期八年」を公約に掲げて初当選。一期目の〇五年に区自治基本条例を制定し、区長の任期を「連続して三期を超えて在任しないよう努める」とした。だが先月、区議会で四選出馬を表明。区は近く、条例の多選自粛規定を削除する改正案を区議会に提案する。首長の多選自粛条例は杉並区で〇三年に全国で初めて制定されたが、一〇年に現職の田中良区長が廃止した。 (杉戸祐子)
◆多選の弊害不可避
<岩崎恭典・四日市大教授(地方自治)の話> 首長にも得意分野、不得意分野があり、多選の弊害は避けられない。多様な人が交代して務めることが重要だ。ただ、条例は努力義務で拘束力はない。(中野区長は)規定を超えて立候補するなら十二年でやってきたことを総括し、次の四年で実現する政策を区民にしっかりと説明する責任がある。

本記事では,中野区における自治基本条例の実施を踏まえた修正方針を紹介.
同区の同条例第7条第2項では「活力ある区政運営を実現するため,区長の職にある者は,連続して3期(各任期における在任期間が4年に満たない場合もこれを1期とする.)を超えて在任しないよう努めるものとする」*1と,区長の在任期間に関する努力規定が置かれている.
同条例の解説となる「中野区自治基本条例の考え方」を確認してみると,「特定の者がこの権限の集中する区長の職に長期にわたり在任することは,自治の理念に照らして好ましくなく,活力ある区政運営を実現するため,区長の在任期間について特定の者が長期にわたらないよう努めることを定めています」*2との考え方に基づく規定とされる.
ただ,同条項の同条例内での規定に関しては,同条例制定に向けて同区に設置されていた「仮称中野区自治基本条例に関する審議会」では,2004年11月にまとめた答申では,次のように述べる.

「審議会では,区長の在任期間の制限についても審議しました.区長は,区の行政を自主的かつ総合的に実施する役割をもち,幅広い事務に関する権限をもっています.どんなに優れた人であっても,特定の人がこの権限の集中する区長の地位に長期間在任することは,自治のあり方に照らして好ましくなく,区長の在任期間は長期に及ばないことが望ましいことを確認しました.ただし,自治基本条例に盛り込む内容かどうかについては議論が分かれ,別な条例により規定する案,区長自らの姿勢として示すべきであるとの意見も出されました*3

つまり,在任期間は,長期に「及ばないことが望ましい」という方針は示す.一方で,具体的な任期は明記することはなく,実際に同条例内で規定するか否かは両論併記を取っている.
本記事によると「条例の多選自粛規定を削除する改正案を区議会に提案」する方針にある模様.全条項をすべて削除する選択肢もあれば,例えば,「考え方」及び上記答申の趣旨に倣えば「長期にわたり在任すること」をすなわち3期であると具体的な任期を見立てたこと自体を訂正し,在任期間の規定を修正する選択肢も考えられなくもない.
なお,同条例同条第3項では「前項の規定は,立候補の自由を妨げるものと解釈してはならない」とも規定されており,上記の「考え方」では「立候補の自由は憲法で認められ,制限できないものであり,第3項は,第2項の規定が立候補の自由を妨げるものではないことを説明しています」*4とあり,4期目以降での立候補自体を制約することは企図されていない.
憲法が「法によって権力を拘束する」*5ように「自治体の権力者を拘束・統制するための道具」であることが「実質的意味での自治基本条例」*6と理解される.今後の同区議会での審議状況は,要観察.