日本農林規格(JAS)法にもとづき、食の偽装をした業者に改善を指示する場合、社名や違反事実を原則公表するという国の指針が揺らいでいる。朝日新聞社が47都道府県を調べたところ、1割が非公表とされ、消費者に知らされずに処理されていた。地元に甘い自治体の姿が浮かび上がった。
 02年7月のJAS法改正以降、07年度までの都道府県の改善指示を調べた。計250件のうち、16府県が24件を非公表としていた。茨城県が最も多く、5件。青森、栃木、山口、鹿児島が各2件だった。 昨年度、改善指示をしながら非公表としたのは富山、広島、山口、熊本の4県。熊本県は昨年7月、中国産を混ぜたアサリを「熊本産」と記した業者名を伏せた。05年にも北朝鮮や中国産のアサリを熊本産とする産地偽装が国の調査で発覚し、県はこの業者を指導していた。担当者は「調査に協力的で改善にも着手し、商品が流通していなかったため」と説明する。富山県は今年3月、インドマグロを本マグロと偽った販売業者の事案を公表しなかった。この業者には過去に3回指導をしていた。県の担当者は「すでに表示は改まり、おわびの折り込み広告を出していたことから公表しないことにした」という。 非公表とする理由は自治体によって様々だ。02年度に異品種を混ぜた米を栃木県産コシヒカリとした米穀店の事例など2件を非公表とした栃木県。担当者は「(改善指示は)国から地方に権限を委譲された自治事務で、国の指針に従う義務はない」と話す。輸入のイトヨリダイのすり身を、「鹿児島沖」のマダイなどと記していた業者の例を非公表にした鹿児島県の担当者は「公表しないことで保護される法人の権利利益と、公にすることで保護される人の生命、健康の利益を比較した結果」とする。山梨、福井、奈良、和歌山、宮崎の5県は過去6年で1度も改善指示を出していない。奈良県は02年に別産地のそうめんを特産「三輪そうめん」とした業者への対応を巡り、農水省と対立。県は「公表より指導を優先すべきだ」として指示を見送っている。 国の指針に照らせば「公表」を前提とする改善指示となるのに、非公表となる「指導」ですませるケースも多い。福岡県は今年3月、東北地方のアブラボウズをクエ(アラ)として販売した福岡市の高級料亭を指導とした。仕入れ先から「クエ」と書かれた販売証明書を受け取り、「だまされた」とする料亭側の言い分から、県は故意ではなく、過失と認定。だが農水省の担当者は「プロの料理人が現物を確認して仕入れながら、クエと区別がつかなかったという言い分には疑問が残る」と首をかしげる。(歌野清一郎)

同記事では,「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づく改善指導を各自治体で行った場合,国からは事業者名・違反事実を原則公開することを求める一方で,自治体側では,その対応は様々であることを紹介.同指針については,農林水産省HPを参照*1
同記事では自治体による公開措置について,「地元に甘い」との分析がなされている.同記事は,読み方次第では,まさに「統治と自治のバランス」*2について,種々考えさせられる.例えば,国からの期待に反し,自治体が規律を緩めていると捉え(いわば「エージェンシー・スラック」(ただ,自治体が国の「エージェント」と捉えて分析することが妥当なのかは少し考えてみたい)*3),事務権限を有していても行使しない(できない)自治体の実情を紹介したとも読める,一方で,この規律の緩和を解消すべく,一連の消費者行政改革のなかで,一元的な管理体制の徹底をはかるとして,「厳格公開」を含めて事務権限の「住所」もまた変更すべきであるとの問題提起を行っているとも読めないこともない(そうであれば,「逆コース的」な動向ともいえなくもないが).
消費者行政推進会議が取りまとめられた報告書『消費者行政推進会議取りまとめ』では,「国、地方一体となった消費者行政の強化」との項目で以下のように論じ*4自治体の役割が不可欠として,その財源等の措置が必要と述べる.

国民目線の消費者行政の充実強化は、地方自治そのものである。消費者の声に真摯に耳を傾け、それに丁寧に対応していくことは、地方分権の下で、地方自治体が地域住民に接する姿勢そのものであり、国民目線の消費者行政の推進は、「官」主導の社会から「国民が主役の社会」へと転換していくことでもある。霞ヶ関に立派な新組織ができるだけでは何の意味もなく、地域の現場で消費者、国民本位の行政が行われることにつながるような制度設計をしていく必要がある。このため、新組織の創設と併せて、地方分権を基本としつつ、地方の消費者行政の強化を図ることが必要である。また、消費者にとって身近な地方自治体から国に対して、消費者のための政策を提案できる仕組みを構築し、消費者の意見が出来る限り反映されることが重要である。
しかしながら、地方の消費者行政部門の状況をみると、予算は大幅に削減され、総じて弱体化している(別紙6参照)。地方の消費者行政をこの1、2年の間に、飛躍的に充実させるためには、特に当面、思い切った取組が必要である。地域ごとの消費者行政は、自治事務であり、地方自治体自らが消費者行政部門に予算、人員の重点配分をする努力が不可欠である。

また,地方分権改革推進委員会の『第一次勧告』*5でも,ほぼ同様のスタンスに立ちつつも,より明確に,国と自治体との間のでの権限関係の分担を行うべきとの提案をする.

消費者行政における国の役割は、全国的に統一する必要のある安全基準の策定や全国的に展開する営業許可の付与及び取消し等に限定することを基本とし、事故を未然に防ぐための、又は事故が発生した際の報告徴収、立入検査や指示、改善命令、営業停止処分等の規制権限は幅広く、都道府県に移譲することを基本とすべきである。

ただ,役割分担を行った後の実施の現状は,まさに分権改革後の「運用の時代」においてこそ顕在化される課題.ただ,その「不ぞろいさ」の結果を持って,「自治」とするか否かは,見方によるもの.「地方自治の近代化」*6の各自治体の姿はこのようなものとなるのだろうか.

*1:農林水産省HP(食品表示の監視について)「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律第19条の8の規定に基づいて定められた飲食料品等の品質表示基準の違反に係る同法第19条の9の指示及び公表の指針」(2002年6月)

*2:小西砂千夫『地方財政改革の政治経済学』(有斐閣,2007年)10頁

地方財政改革の政治経済学―相互扶助の精神を生かした制度設計

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*3:J.M. ラムザイヤー, F. ローゼンブルース『日本政治の経済学』(弘文堂,1995年)4〜6頁

日本政治の経済学―政権政党の合理的選択

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*4:首相官邸HP・消費者行政推進会議『消費者行政推進会議取りまとめ』(2008年6月13日)6〜7頁

*5:内閣府HP・地方分権推進委員会『第一次勧告』(2008年5月28日)30頁

*6:自治庁編『地方自治の近代化』(1957年11月)5頁