過疎化などで空き家率が実質全国1位の和歌山県が、景観を著しく壊す廃虚について、知事が所有者に撤去などを勧告・命令できる条例案の策定に着手した。県によると、景観だけを理由に私有財産を制限する条例が成立すれば全国初となる。
 県の審議会に5日示された素案によると、不特定多数の目に付き、1年以上利用されずに破損が激しく、景観に著しく不調和を来す建物などが対象。一定区域内の土地所有者の3分の2以上の同意を添えて住民が要請すると、知事は所有者に「景観支障状態」の解消を勧告、従わない時は命令できる。条例施行時に既に景観支障状態の建物に対する命令の場合、費用は県が負担する。また、建物を景観支障状態にしないよう努めるとする県民の規範も定める。鳥取県には景観と生活環境の二つの観点から建物を撤去できる条例がある。

本記事では,和歌山県における景観を理由に私有財産を制限する条例制定に向けた検討状況について紹介.本記事で報道されている「県の審議会」に関しては,同県に設置された景観審議会とも想定されるものの,同県HPでは,同会に関しては現在のところ,公開されておらず*1,同条例の検討状況に関しても,把握できず.残念.公開後,要確認.
本記事の末文にて,紹介されている,「鳥取県」に設けられた「条例」は,「鳥取県景観形成条例」とも察せられ,同条例を拝読させて頂くと,同条例第21条では「1年以上にわたって特定の目的に使用されず」かつ「適切に管理されなかったこと」で「地域の景観形成及び生活環境の保全に支障を生じさせるに至った」,「建築物等」「土地」「屋外に堆たい積された物件」の「いずれかの物件」(同条例では「景観支障物件」と略)に関しては,「当該景観支障物件から規則で定める距離以内の区域に居住」され「土地の所有権若しくは建物の所有を目的とする対抗要件を備えた地上権若しくは土地の賃借権を有」され,又は「事務所若しくは事業所を有する者」(同条例では「周辺住民等」と略)に関しては,「当該景観支障物件の所有者等」に「当該支障の除去のための措置」(同条例では「支障除去措置」と略)を行わせるように「知事に申し立てることができる」*2ことが規定されている,同条例では,同条例第22条第1項に基づき,同県知事は「措置勧告」を行うこととなる.措置勧告に際しては,同条例同条第2項により「あらかじめ,当該所有者等に意見を述べる機会を与える」こと,「当該景観支障物件の所在地を管轄する市町村長及び鳥取県景観審議会の意見を聴」くことも義務付けられている.措置勧告が示された後には,「その所有者等」に対して「必要な措置を講ずるよう要請」できると規定されており,仮に「所有者等が当該要請に従わない」場合には,「その旨を公表」すことができるとの規定が設けられているものの,最終的には,「所有者等」の「自発的な意思決定」*3を企図する仕組みとされている.
本県における同条例に関しては,本記事を拝読する限りとはなるものの,本条例の対象となる「景観を著しく壊す」場合である「環境支障状態」とは,構成要件は,「不特定多数の目に付」くこと,「1年以上利用されずに破損が激し」いこと,そして「景観に著しく不調和を来す」ことの3つが想定されている模様,前2つの要件は,比較的外形的に判定しやすそうではあるものの,最後の「不調和」と要件に関しては,認知の範囲を含みうることも想定され,「環境支障状態」の「確定」*4は困難そう.また,本県の条例では「一定区域内の土地所有者の3分の2以上の同意」に基づく要請である場合には,知事による勧告に至ることも想定されている模様.要請から勧告,そして「命令」(「命令」なのでしょうか)に至るその間の手続は,本記事のみでは判然とはしないものの,「環境支障状態」の確定に関する「合意」の一方で,当該景観空間の整序に関する「「拒否権」の制度化」*5が設けられることにる.本記事で報道されている「従わない時は命令」へと至る手続及びその内容次第ではあるものの,いわば,自らも含めた「一定区域内の土地所有者」間での同意の調達如何では,まさに,「地上空間の使途をコントロールして望ましい景観を確実に創出・維持する」際に,「地権者が明示的合意を結んだ上で使途を相互抑制しこの空間の使途決定堅を実質的に共有化」*6されているとも整理ができそうか.同条例の具体化は興味深い.要経過観察.

*1:和歌山県HP(組織から探す県土整備部都市政策課)「県土整備部都市住宅局都市政策課 和歌山県の景観施策について

*2:和歌山県HP(県政情報県政基本情報県条例・規則)「鳥取県景観形成条例」(平成19年3月16日,鳥取県条例第14号)

*3:北村喜宣『分権政策法務と環境・景観行政』(日本評論社,2008年)47頁

分権政策法務と環境・景観行政

分権政策法務と環境・景観行政

*4:北村喜宣『自治体環境行政法第5版』(第一法規,2009年)119頁

自治体環境行政法 〈第5版〉

自治体環境行政法 〈第5版〉

*5:北村喜宣『行政法の実効性確保』(有斐閣,2008年)71頁

行政法の実効性確保 (上智大学法学叢書)

行政法の実効性確保 (上智大学法学叢書)

*6:鳥澤円「景観紛争における公共性」井上達夫編『現代法哲学講義』(信山社,2009年)211頁

現代法哲学講義

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