長崎県内の50代の薬剤師の男が、経営する薬局の個室トイレで盗撮したとして軽犯罪法違反(のぞき見)容疑で書類送検されたことが16日、長崎県警への取材で分かった。盗撮は同県迷惑行為等防止条例では6月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せるが、禁止する場所は「公共の場」のみ。個室トイレは「公共の場」でなく、拘留または1万円未満の科料で済む同法しか適用できなかった。条例で盗撮を禁じる場所は自治体によって違いがあり、被害女性は「理不尽」と憤る。
■「公共の場」
 送検容疑は8月、従業員や客が利用する薬局のトイレに単3乾電池大のビデオカメラを置き30代女性従業員を2回撮影、のぞき見た疑い。カメラは動きに反応して作動するタイプで、設置する男の顔が写っていたという。
 県警によると、同条例が盗撮を禁じる公共の場とは「不特定多数が自由に利用し、出入りできる状態に置かれた場所」。店舗のトイレでも、個室なら公共の場とみなさない。他人の経営する店にカメラを仕掛ければ、建造物侵入罪に抵触する可能性もあるが、自分の店ならそれもできない。
 9月、長崎市職員が商業施設で女性のスカートの中を盗撮した事件では、職員は同条例違反容疑で逮捕され、罰金20万円の略式命令を受けた。今回の被害女性は「スカートをのぞいた方が重いなんて」とあきれる。取材に対し、書類送検された男は「正直、こんなに軽いとは思わなかった」と話す。
■「時代遅れ」
 盗撮を禁じる条例の罰則は各都道府県とも、おおむね6月以下の懲役または数十万円以下の罰金。だが、禁止場所は「公共の場」限定の自治体と、これに「公衆が利用する便所、浴場など」を加える自治体に分かれる。九州で公共の場限定の自治体は長崎、福岡、鹿児島、宮崎。「便所など」を加えるのは佐賀、熊本、大分(来春施行)。佐賀県警は今年7月、改正条例を施行。「トイレなどでの悪質な盗撮が増えたため」と説明する。
 中里見博福島大准教授(憲法)は「条例は『下着のぞき』を主に想定している。しかし、カメラの高性能化で個室での盗撮のほうが深刻な問題になっている。公共の場限定の自治体は、社会の変化に追いついていない」と指摘。刑罰が軽い軽犯罪法(1973年改正)も「単純なのぞきがほとんどだった時代のもので、現代の盗撮を想定していない」という。
■自殺未遂も
 盗撮事件に詳しい全国盗撮犯罪防止ネットワーク(和歌山県)の平松直哉代表は「被害者の知らないところで盗撮映像がネットなどで売買されている」という。盗撮された映像を売買された女性が、自殺未遂するなどの例もあるという。平松代表は「軽い刑罰しか科せない県で、盗撮が横行する恐れもある」と話す。2005年、自民党参議院議員が中心となり、トイレや浴場などでの盗撮を禁じる「盗撮防止法案」の国会提出を目指したが「郵政解散」のあおりを受け見送られた。その後大きな動きはない。中里見准教授は「盗撮の実情に合った法律を、早急に整備する必要がある」と強調する。

本記事では,九州に位置する各県における,「迷惑行為等防止条例」における盗撮禁止に関する規定の動向について紹介.
本記事を拝読させて頂くと,同種条例を規定されている各県では,その対象を「公共の場」として規定される自治体(長崎,福岡,鹿児島,宮崎)と「公衆が利用する便所,浴場など」(佐賀,熊本,大分)に分かれている模様.前者の「公共の場」の規定に関しては,本記事を拝読するとその解釈において「限定」されているとある,各条例上「公共の場」にいう「公共」規定を,「閉域をもたない空間」*1としての認識に基づく規定されているとの理解が適当なのだろうか.一方で,「閉域をもたない」ことは,「誰もがアクセスしうる空間である」*2とも換言すること可能ともなると,当該認識に基づく場合には,後者の「公衆が利用する便所,浴場など」もまた,その「公共」規定内に包摂しるうる概念として,決して「限定」されないようにも考えられなくもない.
いずかの規定に関しても,「公共」なるものが,各自治体毎で「一義的なもの,単一ものとしてとらえてはいない」*3ことにより,地域的な連坦的がなく,いわば「まだら」的な「水平的波及」*4が窺える(全国的にも同様なのでしょうか.要確認).「公共的空間は開かれているにもかかわらず,そこにはつねに排除と周辺化の力がはたらいている」*5とすれば,その排除と周辺化に至る各自治体における同規定への認識とそのメカニズムは,興味深そう.

*1:齋藤純一『公共性』(岩波書店,2000年)8頁

公共性 (思考のフロンティア)

公共性 (思考のフロンティア)

*2:前掲注1・齋藤純一2000年:5頁

*3:前掲注1・齋藤純一2000年:101頁

*4:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶應大学出版会,2002年)45頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

*5:前掲注1・齋藤純一2000年:8頁