焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件を受け、厚生労働省は今月5日、各都道府県に通達を出し、生肉の表面を削って菌を取り除く「トリミング」の徹底など、生肉を提供する焼き肉店への指導を強化するよう求めた。だが石川県や金沢市保健所は、正しいトリミング方法や、生肉の提供自体の是非を巡って内部の意見調整が難航し、通達から1週間以上が経過した今も、立ち入り開始の具体的なめどが立たない状態が続いている。
 同省は1998年策定の「生食用食肉の衛生基準」で、食肉処理業者や飲食店に対し、加工の際、衛生管理が徹底された設備で「トリミング」を行うことなどを求めている。ただ、法的拘束力がなかったため、行政が指導を徹底させることが難しく、基準の形骸(けいがい)化が、食中毒発生の遠因との批判も出ている。これを受け、同省は今月5日、新たに基準を設け、違反した場合には罰則を科す方針を発表。強制力を持たせるまでの間、基準を満たさない生肉が提供されないよう、都道府県などに通達して緊急の監視指導を求めた。
 指導内容には、トリミングを始めとする加工や保存の方法、衛生基準に沿って処理した生肉であることの表示の徹底―などを挙げている。食中毒事件で死者が出た富山、福井両県は、通達翌日の6日から立ち入りを始めたが、石川県は「国の現在の衛生基準では、トリミングの大まかな方法しか示されておらず、正しいやり方が不明」とし、指導基準を固めるのに手間取っている。今週中にも、立ち入りや焼き肉店向けの研修会を始めたい考えだが、具体的な開始日は決まっていない。薬事衛生課の担当者は、「例えば、トリミングで菌の付いた部分を包丁で切り落とすと、包丁やまな板に菌が移る。1回切るごとに消毒すると作業が煩雑になるが、どこまでやればいいのか」と頭を抱える。
 金沢市保健所も同様に、開始日が決められないでいる。衛生指導課の担当者は「トリミングをしても食中毒は完全に防げないので、生食を提供しないよう指導してきた。『表示した上で提供を』というのは、これまでの指導と矛盾する」と打ち明ける。厚労省監視安全課は「これまでも、原則的には提供しないように、どうしても提供するなら定められた加工法でと、2段構えで指導を行ってきた」として、従来の方針とは矛盾しないという立場だ。
 とはいえ、今回の通達を巡り、複数の自治体から疑問や戸惑いの声が寄せられているといい、同省は現在、自治体向けのQ&Aを作成中だ。同省が求める監視指導の実施期限は5月末。県の担当者は「このままでは、月内に立ち入りや研修を終えるのは難しそうだ」と話している。

本記事では,金沢市及び石川県において,厚生労働省による「通知」「生食用食肉を取り扱う施設に対する緊急監視の実施について」(平成23年5月5日付け食安発0505第1号)を受けての緊急監視の取組状況を紹介(本記事では「通達」とありますが,「通知」でしょうか).同通知に関しては,同省HPを参照*1
同通知は,本記事でも紹介されているように,従来の「通知」である「生食用食肉等の安全性確保について」では,「生食用食肉の衛生基準を策定」し「消費者,関係事業者への周知・指導」の「お願い」*2をしていたものの,今回の事件により「食中毒の発生の防止を図る必要」から「生食用食肉を取り扱う営業施設に対する監視指導を緊急に実施」*3を求めるもの.監視は「平成23年5月末日まで」に実施し,その結果を「6月5日までに」を「とりまとめて監視安全課」にまで「報告」*4することを求めている.あわせて,「衛生基準通知に適合しない場合」には「生食用食肉の取扱いを中止させ」るとともに,「施設側の改善結果を確認した上で取扱いを再開するよう指導する」*5こともまた通知する.
本記事を拝読させて頂くと,現在のところ,同市及び同県では,同通知に基づく緊急監視の実施には,慎重な姿勢にある模様.一方で,本記事でも紹介されている「富山,福井両県」を始め,他の都道府県では実施を開始.例えば,2011年5月6日付の産経新聞を拝読すると,「全飲食店は13万軒」があり「ユッケなどの主な提供先は焼き肉店」は「その実数は把握できていないのが現状」であり,「食肉処理業者や食肉販売業者」が「都内には処理業者が約900軒,販売業者が約1万3千軒」ある東京都では,「健康安全研究センター広域監視部」「芝浦食肉衛生検査所」そして「都・特別区・八王子市・町田市の保健所」*6により監視が実施されている状況も報道.ただ,同記事では,「都幹部」の言葉として「この項目がひとり歩きすれば,逆にこれさえ満たしていれば安全ということになりかねない」*7とも紹介する.
果たして,本記事で紹介される同市・同県のように,同通知では「正しいやり方が不明」として,監視による「作為過誤回避を指向」することが適切か,又は,本記事,同記事にも紹介されている他都道府県のように「項目」のひとり歩きへの危惧をしつつも「不作為過誤回避を指向する」*8ことが適切か,いずれにおいて「ディレンマ」が内包しており,悩ましい.